ドラァグクイーンが全国から集まる空間
2017(平成29)年9月、多くの人たちの手によって初めての「BEPPU ブルーバード映画祭」が開催された。その趣旨は、「照さんの功績を讃え、昭和から続く劇場を楽しんでもらうため」。映画祭は照さんがどれだけ、多くの人から愛されているかの証しだった。
映画祭には毎年、役者陣として津田寛治、西村知美、真木よう子、阿部サダヲ、監督の阪本順治、白石和彌など、錚々たるゲストが別府の小さな劇場を目指してやってきた。こうしてブルーバード劇場は年に1回、特別な祝祭空間と化すのだ。
第1回のゲストとして、女装家・ブルボンヌさんが招待され、黒人差別撤廃をテーマにしたミュージカル「ヘアスプレー」を上映後、多様性やLGBTQについてのトークショーを行った。
これがきっかけで、全国のドラァグクイーンたちが毎年、映画祭に大集合することになったのだ。大勢のドラァグクイーンがダンスを踊り、語り合う一大イベントがここ「ブルーバード」で繰り広げられているとは、まさか、アイデアマンだった亡き夫・昭夫さんだって思いもしない。
照さんはニコニコ笑って、全てを受け入れる。ドラァグクイーンが大勢やってくるのは、照さんにすれば「温泉の魅力やね。温泉と食べ物がおいしいから、みんな満足して帰ってくれる」と、別府の魅力に落ち着くのだが、いやいや、彼らがやって来るのは、ひとえに照さんのおおらかな魅力ゆえ。
別府から離れたことのない世界人
そこは、次女の実紀さん(66歳)がよくわかっている。
「差別しないとか、そういうのではなく、照さんの“普通”がうれしいようです。誰にでも変わらず、『ああー』って笑う感じが。初対面で男性姿の人が翌日、女性に変わっても、照さんは驚かない。“まんま”なの。何のフィルターもなく、思ったことをそのまんま言う。それが皆さんには心地よく、また来てくれるんだろうと思います」
照さんは、こんな感じだ。
「来た時はヒゲがあったけど、きれいにしたのねー」
「男のおじちゃんかと思ったら、あんた、よう、あんなにきれいになったねー」
ピンヒールを見たら、「よう、そんなんで、歩きよるね」。
照さんの視線は、上からでも下からでもない。ただ、思ったことを口にする。そしていつも、ニコニコと花のように笑う。それが、“そうじゃない視線”を受け続けてきた人たちにとっては新鮮であり、何一つ肩肘張らなくていい場所が、照さんのいるブルーバード劇場なのだ。
生まれも育ちも別府で、旅行以外、別府から離れたことがない。でももう半世紀以上、照さんは日々、映画で世界中を旅し、人々の喜びや悲しみや理不尽にその身で向き合ってきた。
それこそ、星の数ほどの多種多彩な物語がその胸にはある。だから、照さんはそのまんまの自然体で、好奇心の赴くままに、どんなことでもウエルカムなのか。

