吉永小百合も訪れた黄金の日活専門時代
父が館長だった昭和30年代は、「日活ブルーバード劇場」として日活専門の映画館だった。今も館内に飾られている、女優の吉永小百合さんとの写真はその時代のものだ。
「日活の映画館だったから、吉永小百合さん、浅丘ルリ子さん、山本陽子さんもみんな、うちに来てるんです。私は月丘夢路に似てるってよく言われたり、ネ」
その面影は、間違いなくある。その容貌で天真爛漫の笑顔があれば、照さんは掛け値なく無敵だ。
1966(昭和41)年に現在のビルを竣工、その頃は洋画の2本立てをオールナイトでかけていた。もちろん照さんは、封切り作品を全て観る。
「当時はブルース・リーとか、カトリーヌ・ドヌーヴ、クリント・イーストウッドとか観てましたね。好きだったのは『ひまわり』。ストーリーだけじゃなく、音楽もとっても良くて。それと、『ローマの休日』。グレゴリー・ペックのファンになったの」
お分かりだろうが、照さんは甘いマスクのイケメン好きだ。邦画なら、好きな俳優は佐分利信、佐田啓二、そして今は斎藤工。
「食べながら鑑賞」できる斬新なアイデア
1970(昭和45)年、照さんたっての希望で、劇場を今の2階に設置した。この年に創業者の父が亡くなり、昭夫さんが2代目の館長となった。
夫・昭夫さんは時代を先取りした、斬新な映画館を作り上げた。劇場に可動式の椅子を置き、奥にはカウンター。椅子横に長方形の小さなサイドテーブルを置き、赤い豆電球をつけ、ライトが光れば、給仕係が椅子に出向き、注文を取る。メニューは昭夫さん手作りの特製カレーにサンドイッチ、コーヒー。おかげで観客は出来たての軽食を食べながら、映画鑑賞ができるのだ。実紀さんは、父のカレーを記憶する。
「大きなビーフの塊を何日も寸胴鍋で煮込んで、トロトロに煮込まれたビーフの塊が1個か2個入る、ねっとり濃厚なカレーでした。おいしかったですねー。もともと料理が好きで、中華屋をやりたいって言っていた人だから。食べたい人は食事を注文して、食べながら映画を観る。そういう映画館があってもいいかなと思っていたんじゃないですか」
ちなみに、照さんは料理に関して「あんまり作らない。パパにまあ、お任せや」。
実紀さんには、こんな思い出がある。
「ママの料理は、適当。でも私と姉は、ママのご飯で育ったわけだから。ママのご飯って、牛肉と野菜を塩胡椒でサッと炒めただけとか、そんなのばっかり。でもおいしいの」
料理だって、照さんにかかれば気風の良さに尽きるわけだ。凝り性の昭夫さんと、対象的だ。照さんのおおらかさを思えば、夫にうるさいことは一切言わない妻の姿が見える。
「うん、そうやね。自由にね。お互い、束縛もなく」
しかし、予期せぬ別れが訪れる。


