リタイア後に待ち構える世界では「こんな老人が好かれる、嫌われる」。有識者・介護のプロの面々から異口同音、まったく同じ回答が――。

「ぐずぐずするな」とスタッフを叱責

嫌われる老人とは、一言で言うと横柄な人だ。

「元々の性格かもしれませんが、地位の高かった方が現役そのままの感覚で入ってこられた場合が多いですね。スタッフは仕事ですから、それなりに対応できますけど、他のお客様はその方と一緒の席には座りません。他人に近づくか否か、人は第一印象で決めますから、どうしてもそうなります」(ブレイングループ デイサービス責任者 堀智美氏)

実際、堀氏の顧客でそういう老人はいるという。リタイアしたはずなのに、心は現役同様、常に“戦闘モード”。どこを見ているか、何を言われるか見当がつかない。新しく入ったスタッフにはことのほか厳しく当たる。

「やたら呼びつけて『○○を持ってこい』と命令するし、以前からいるお客様にも、自分が最古参であるかのように振る舞う。理不尽なことも平気で言うし、『自分が偉い、自分が絶対』と思っていて、他人を蔑むことで自分の地位を保つような感じ」(堀氏)

車椅子に座り、スタッフに「押せ」と一言。すぐに来ないと「ぐずぐずするな」と叱声が飛ぶ。人間関係を上下でしか捉えられず、年下のスタッフを部下か下僕としか見ることができない。

「『呼ぶ前に気づかんのか!』と言われれば確かにそうなんですが……ご家族も『ほんとに難しい人で』と。ご近所に仲のいい方がいるとも聞かない。この方にいろいろ言われると、人格まで否定された気持ちになります」(堀氏)

1度自分が座った席を、頑としてほかに譲らないのもこの老人だという。

「部屋の隅のテーブルの角にあって、部屋全体が見渡せるポジション。いわば会社の重役の席です。今もご自身のことをそう思っているんですね」(堀氏)

介護度が高くケアが大変でも愛嬌のある老人と、介護度が低く、手がかからないが無愛想で横柄な老人。率先して世話をしたくなるのは、改めて比べるまでもなく前者だという。

「介護度が高いと、体力的なキツさは全然違うんですけどね。やはり仕事は肉体面よりも精神面。愛嬌のある方だと、やり甲斐というか、その方のお気に入りになりたい、もっと喜んでもらいたいと思ってしまう」(堀氏)

そこで「そんな奴はプロじゃない」と怒る人は、その嫌われ老人と同類の可能性があるから要注意だ。