西岸経由からスエズ経由へ変わる最適ルート
とはいえ、人件費の上昇以外にもサプライチェーンの安定性の面からもチャイナプラスワンを求めるニーズが出てきていたこともあり、米中貿易摩擦が産業移転を促進するきっかけになったと考えることができます。
現在米国が輸入するコンテナ貨物の多くが西岸のロサンゼルス港やロングビーチ港で荷下ろしされています。
人口の多い米国東岸向けの貨物も鉄道に積み替えて内陸輸送することもみられています。
しかし、東南アジアや南アジアからの場合、西岸港を経由するのではなく、インド洋を渡り、紅海からスエズ運河を経由して地中海、大西洋を回って東岸の港へと輸送したほうが望ましいケースがあります。
船だけで米国東岸へ向かう場合、太平洋を渡りパナマ運河を経由して大西洋を北上するルートがあるものの、スエズ運河経由のほうが距離は短くなるのです。
そのため、アジアにおける生産拠点の移動は、国際的な輸送動向の変化を通じて日本にも影響を与える可能性があります。
前述のように、米国東岸へは、東南アジアから西ではスエズ運河経由が有利です(そのため、シンガポールから米国東岸に向かうコンテナ定期航路は、通常スエズ運河経由で、現在は喜望峰を迂回しています)。
基幹航路から日本が素通りされる
そして、生産拠点が移行するにしたがって輸送される荷物の多い地域が西に移動すると、荷物の多い地域を行き来する定期便が増加します。
これが何を意味するかというと、北米東岸や欧州に直接向かう船(基幹航路の母船)が日本を経由しなくなる要因となるのです。
現在、日本のコンテナ港湾は基幹航路の寄港が減少を続けています。2026年春には、それまで唯一の欧州と日本を結ぶ直航便となっていた、プレミアアライアンスによる欧州直航便「FP1」「FP2」が日本への寄港を休止しました。
その後、フランスの海運会社CMA-CGMが日本と欧州直航便「Ocean Rise Express(OCR)」を開設したことで欧州と日本の直航便はなんとか維持されていますが、不利な状況にあることは否めません。
万が一直行便がなくなると、日本からの輸出や日本への輸入ルートも、釡山やシンガポールなどの港での積み替えが必要になるなどの変更が発生しますし、直接寄港するケースと積み替えを行うケースでは輸送にかかる時間も異なってきます。
チャイナプラスワンの進行は、日本企業による海外拠点変更やサプライチェーン組み換えといった主体的なかかわりはもちろん、間接的な形で国際物流や貿易に影響を与える可能性もあります。


