富裕層「不便だから買いたい」

島々が再び注目される理由には、少々危ういところがある。本土から離れた不便さが解消される見込みは薄く、だからこそ物好きの富豪たちの興味を惹いているという。

金融危機でプロジェクトは頓挫し、大半の島は手つかずのまま残された。ノティシアスは、超富裕層の不動産市場において、その「希少性」が評価され、立地の不便さを補っていると分析する。

超富裕層が割増価格を払うのは、海に隔てられて容易にたどり着けない環境、すなわち「お墨付きの孤絶性」だ。世界中がつながる時代だからこそ、交通ハブもない隔離された島々に値段がつく。

ドバイ国際空港からわずか25分でありながら「孤絶したプライベート島」を名乗れる立地は、ほかの市場では再現できない。

ノティシアスによると、「ハート・オブ・ヨーロッパ」では、2025年10月から2026年1月にかけて海外投資家の問い合わせが340%増えた。

かつては島が海流で浸食されているという噂が流れ、「本当に沈まないのか」という問い合わせが多かったという。今、そうした懸念は影を潜め、「いつ引き渡しか」「賃料はいくら取れるか」といった実務的な関心が目立つ。

計画の頓挫により開発は大きく遅延し、海底に敷設されるはずだった電力網は実現していない。ハブから供給されると謳われた真水の配水もない。ゴミ処理プラントも船の発着場も各リゾートが独自に建設する、自給自足の状態だ。

失敗によって生じたこのような制約があってなお、手軽な孤島という性質が、いまや最大のセールスポイントになっている。

休暇中に豪華なヨットでシャンパンで乾杯する友人
写真=iStock.com/JohnnyGreig
※写真はイメージです

中東リスクを乗り越えられるか

帰りのスピードボートが本土に向かって波を切れば、船窓の外には無人の砂山が次々と流れていく。総開発費約140億ドル(約2兆1000億円)を注ぎ込んだ、約300の人工島だ。

景色を過ぎてゆく数々の砂山に、わずかな動きはある。パーティー会場「ソーホー・ガーデン」がチリを模した島で特別イベントを始め、UAE系デベロッパーのザヤは自社の島でプライベートヴィラ30棟を売り出した。26棟には買い手がついたが、残り4棟はまだ空き物件のままだ。

ドバイのムハンマド・ビン・ラーシド・アール・マクトゥーム副大統領兼首相は2011年、グリーンランドに見立てた島に私邸の建設を命じ、ザ・ワールド初の「居住者」となった。東京の1つの区に相当する総面積約50平方キロメートルの開発区域で、長らく唯一の住人だった。

英ジャーナリストのロバート・ジャックマン氏は、テレグラフ紙への寄稿で、マクトゥーム氏にも「ようやく隣人ができそうだ」と皮肉る。長らく白地図であったザ・ワールドに、ようやく雪解けが訪れようとしている。

もっとも、全300島の完成時期は誰にも見通せない。中東情勢のリスクを投資家が嫌気すれば、減速のシナリオもにわかに現実味を帯びるだろう。

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