聞こえ始めた復活の息吹

こうした開発の遅れを経て、約15年の沈黙を破り、島に初めての宿泊客が降り立ったのは2022年のことだった。

UAE系デベロッパーのセブン・タイズが手がけた「アナンタラ・ワールドアイランズ」がこの年、限定営業(ソフトオープン)を始めたと、テレグラフが伝えている。

同リゾートは、ザ・ワールドの南アメリカ・エリアの一角に位置する。プライベートプール付きのヴィラに朝食が届くモルディブ風のリゾートで、ドバイの喧騒から離れたい在留外国人やUAE国民に支持されているという。UAEニュースサイトのノティシアスによると、アナンタラはハイシーズンで85%近い客室稼働率を確保している。

ザ・ワールドの別エリア、ヨーロッパの都市をテーマにした6島のリゾート「ハート・オブ・ヨーロッパ」でも動きがある。うち1島の「ハネムーン・アイランド」では、長年遅延していた水上ヴィラ「フローティング・シーホース」で、全42棟中36棟のオーナーが確定した。

かつて「呪われたプロジェクト」と酷評されたエリアの物件は、所有することでステータスを得られる「トロフィー資産」として語られ始めている。

ブルジュ・ハリファから眺める「ザ・ワールド」
ブルジュ・ハリファから眺める「ザ・ワールド」(写真=Vincent Eisfeld/nordhausen-wiki.de/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons

電力も水道もない島に5000室のホテル計画

冬の時代を経て、ゆっくりと再始動しつつあるザ・ワールド。しかし、建設は前途多難だ。

ハート・オブ・ヨーロッパを手がけるクラインディーンスト・グループの創業者兼会長、ヨーゼフ・クラインディーンスト氏によると、ザ・ワールドの建設コストは本土比で大規模開発が30%増、小規模では最大50%増にのぼる。中東湾岸ビジネス誌のアラビアン・ガルフ・ビジネス・インサイトが2024年に伝えた。

さらに、コスト以上に根深いのが、交通手段の欠如だ。当初のマスタープランに盛り込まれていた交通ハブは、いまだに整備されていない。クラインディーンスト氏は、「旅客だけでなく、建設資材や食料を運ぶ船のための拠点が本土側と島側の双方に必要だ」と指摘し、「拠点が整わない限り、他のオーナーのほとんどは着手しないだろう。島は空のままだ」と語った。

加えて、電力などのあらゆるインフラがない。ザ・ワールドはドバイ市の公共インフラに接続されておらず、電力・上下水道・廃棄物処理のすべてを開発者が自力で用意しなければならない。リゾートの建設というより、街をゼロから起こす作業だ。

それでもクラインディーンスト氏は手を緩めない。アラビアン・ビジネスによると、同氏が推進する「ハート・オブ・ヨーロッパ」は総額60億ドル(約9000億円)規模のプロジェクトだ。2027年までに20のテーマ型施設と5000室超のホテル客室を揃える構想で、昨年9月の時点で15棟が建設中、残る5棟も2025年中に着工するという。

もっとも、計画は遅延しており、プロジェクト内でいま稼働しているのは2024年に正式開業した大人専用ブティックホテル「ヴォコ・モナコ」だけだ。