※本稿は、中村哲規『お金より先に“生き方”の話をしよう 後悔しないためのライフプランニング』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を再編集したものです。
資産1億円超でも消えない老後不安
・世帯年収:990万円
・金融資産:1億円以上
・ご相談:母の介護費用と自分の老後準備への不安
今回ご紹介するのは、都内の持ち家(戸建て)にお住まいの50代後半のご夫婦です。夫の敏夫さん(58歳)はIT企業の管理職、妻の洋子さん(56歳)はパート勤務をされています。
お子様2人はすでに独立しており、住宅ローンも完済済み。世帯年収は約990万円あり、金融資産と不動産を合わせた総資産は1億円を超えています。一見すると、老後資金にも十分な余裕があるように見えるご家庭でした。
ご相談のきっかけは、切実な「親の介護」と「老後の生活」への不安でした。85歳になるお母様の認知機能が低下し、要介護2に認定されたことで、施設入居が現実味を帯びてきました。しかし、「費用がいくらかかるのか」「何年続くのか」「誰が負担するのか」が見えずにいました。
さらに、ご自身も定年目前。親の終活と自分の老後支度が同時に押し寄せる将来の入り口で、敏夫さんは身動きが取れなくなっていたのです。
介護・老後・相続が重なる時期の論点
敏夫さんの家計と資産状況を分析すると、早めに整理しておきたい論点がいくつか見えてきました。
まず、お母様の資産は、ご実家(評価額1500万円程度)と預金(500万円)、そして月8万円の年金のみです。施設入居となれば、月々の費用はお母様の年金では足りず、持ち出しが発生します。
敏夫さんには関西に住むお姉様がいらっしゃいますが、距離があるため介護の実働はすべて敏夫さんご夫婦が担っていました。「介護費用を誰がどう負担するのか」「介護にかけた労力をどう考えるのか」を整理しないまま敏夫さんが立て替えを続けると、相続の場面で認識のずれが生じる可能性がありました。姉弟間での話し合いが難しくならないよう、事前の整理が必要な状況でした。
また、敏夫さんご自身についても、間もなく受け取る見込みの退職金2000万円や、これまで築いてきた資産を「どう使うか」の計画がありませんでした。年金生活に入ると収支は赤字になります。資産があっても、取り崩し方のルールがないままでは、将来への不安を持ちやすい状態でした。
さらに、ライフプランニングの過程では、敏夫さんご自身が亡くなった場合の相続についても試算を行いました。
敏夫さんは「相続税はあまり関係ないだろう」と考えていましたが、都内のご自宅(評価額5500万円)に加え、退職金や金融資産を合わせると、総資産は約1億1500万円に達しました。
基礎控除を差し引いても課税対象となる可能性があり、現金の準備や対策がないままだと、残されたご家族が納税資金の確保に悩むことも考えられました。

