鍵を持っていない箱と、鍵を持っている箱

先ほどご紹介したデューク大学のアクバスらの研究では、ケニアの家庭を対象に「お金を安全に貯めるための2種類の箱」を使った実験が行われました。銀行口座を気軽に使えない地域もあるため、日常の中で「貯める仕組み」をどうつくるかが切実な課題だったのです。そこで研究者たちは、家庭内でも使えるシンプルな道具で、貯蓄行動がどう変わるかを確かめました。

堀田秀吾『ハーバード、オックスフォード、スタンフォードetc. 世界の名門大学が導いた科学的に正しい[お金が貯まる]習慣』(扶桑社)
堀田秀吾『ハーバード、オックスフォード、スタンフォードetc. 世界の名門大学が導いた科学的に正しい[お金が貯まる]習慣』(扶桑社)

ひとつはロックボックス。これは物理的に鍵がかかっていて、鍵は利用者ではなくプログラムの担当者が保管します。お金を引き出したいときは、その担当者に箱を開けてもらわなければなりません。つまり、衝動的にお金を使おうと思っても、すぐには使えない仕組みです。

今日の気分で開けられない、というだけで「一晩寝かせる時間」が生まれます。この時間差があると、欲しい気持ちが落ち着き、「本当に必要だったかな」と冷静になれることが多いのです。

もうひとつはセーフボックス。こちらも鍵付きですが、鍵は利用者自身に渡されます。「開けよう」と思えばいつでも開けられるため、ロックボックスに比べて縛りはゆるやか。それでも、「箱を開ける」ほんの少しの面倒くささが、意外と大きな心のブレーキになるのです。

節約の敵は「お金をすぐに使える環境」

結果としては、どちらの箱も「ただ家に現金を置いておく」よりは確実に貯蓄額を増やしたのですが、縛りの強かったロックボックスは、より大きな効果を発揮しました。

「鍵をかけた」という心理的なハードルに加えて、「鍵を持たない」という物理的なひと手間が、より強力に無駄遣いを防いだのです。言い換えると、節約の敵は「浪費したい自分」より「すぐ使える環境」だったということです。

鎖と南京錠で縛られた豚の貯金箱
写真=iStock.com/Pla2na
※写真はイメージです

この研究が示しているのは、「意志の力だけに頼らず、環境で自分を助ける仕組みをつくる」ことの重要性です。貯金用の口座に引き出し制限をつける、定期預金にする、解約に手間がかかる商品を選ぶ……そんな「小さな壁」が、長期的な資産形成を支えてくれます。

たとえば、普段使いの口座と貯蓄口座を分け、貯蓄側はキャッシュカードを持ち歩かない。あるいは、給料日に自動で別口座へ移し、引き出すには手続きが必要な状態にしておく。こうした工夫は、根性を鍛えるのではなく、迷いを減らし、衝動が落ち着く時間を確保するための方法なのです。

ひとことアドバイス
「すぐに使えない環境」をあえてつくることは、未来のあなたを守る優しいセキュリティです。

出典:(既出)Akbas, M., Ariely, D., Robalino, D. A., & Weber, M. (2016). How to Help the Poor to Save a Bit: Evidence from a Field Experiment in Kenya (IZA Discussion Paper No. 10024). Institute for the Study of Labor (IZA).

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