貯蓄が続かない人には「縛り」が必要

私たちは日々「今」を楽しみたい気持ちと「未来」のために節約したい気持ちの間で揺れ動いています。特に貯蓄は、必要だとわかっていても、誘惑に負けてしまいやすいもの。疲れている日ほど「今日くらいいいか」と自分に甘えて、後から自己嫌悪になることもあるでしょう。

そんななか、フィリピンを対象としたハーバード大学のアシュラフらの実証研究が示す「コミットメント貯蓄」は、自分の意志の弱さを逆手に取り、自らに「縛り」をかけることで貯蓄を実現する有効な方法として注目されています。

この研究では、フィリピンの地方銀行の顧客を対象に、自由に引き出せない貯蓄口座(SEED口座)を提供しました。利用者は「いつまで引き出さない」「いくら貯まるまで引き出さない」といった制限を自分で選び、あえて〝使えない状態〟をつくります。

すると、縛りを設けたグループは1年後には対照群と比べて平均で約8割も貯蓄額が増えました。誘惑に勝とうとするのではなく、誘惑に負けにくい環境を先に用意するだけで、結果が大きく変わったのです。

「お金を使うかどうか」を悩まずにすむ

重要なのは、このコミットメント貯蓄が誰かに強制されるような「自分を責める縛り」ではなく、自分で設計する「優しい縛り」だという点です。

人は、手元にお金があると「使う理由」を見つけるのが上手です。反対に、最初から触れない場所に置いておくと、「使うかどうか」を毎回悩まずに済みます。迷う回数が減るだけで、貯蓄はぐっと続きやすくなります。

参加者は貯蓄目標を具体的に決めたうえで引き出し制限をかけ、自分に合った方法でリスクを管理しました。たとえば、「急な出費が心配」という人は、生活費用の普通預金は別に確保しつつ、余裕分だけをSEED口座に移す。こうすれば、困ったときの安全網を残したまま、誘惑に負けやすいお金だけを遠ざけられます。生活が回る範囲で“ちょうど良い不自由さ”をつくるのがコツです。

「貯めたいけど、つい使ってしまう」という人は、まずは、ボーナスや臨時収入の一部だけを「一定期間引き出さない口座」に移す、あるいは積み立てを始めたら半年だけ解約しないと決める。そんな小さな工夫でも、目標がぶれにくくなります。取り組みやすいコミットメント貯蓄を取り入れられれば、将来に向けた安心と充実感を手に入れる一歩になるはずです。

ひとことアドバイス
意志の力に頼るより、環境を先に味方につけましょう。
未来の自分のために、引き出せない口座をつくることが、最強の節約術です。

出典:Brune, L., Gine, X., Goldberg, J., & Yang, D. (2011). Commitments to save: A field experiment in rural Malawi (World Bank Policy Research Working Paper No. 5748).

Ashraf, N., Karlan, D., & Yin, W. (2006). Tying Odysseus to the mast: Evidence from a commitment savings product in the Philippines. The Quarterly Journal of Economics, 121(2), 635–672.