ミリ単位で「高さ」が重要
開口一番、「私は軟らかい枕が好きなのですが……」と告げると、「でもそれは“寝る前”に感じているわけでしょう?」と山田医師がニッコリ。
「枕もベッドも、好き嫌いは関係ないんです。気持ち良さや肌触りなどは、眠ってしまえばわかりません」
た、確かに……と思った。大事なことは早く寝入って、熟睡できることだ。
「ですから特に睡眠や起床時に不調を感じるとき、いったんは医学的見解に基づいた枕を選んで試してほしいと思います。その軸になるのは、枕の『高さ』。男女、身長、体重といった体格に適合するように枕の高さを決めます。そしてその高さを一定に保つだけの『硬さ』が必要なんです」
5ミリ単位でサイズを決める靴のように、枕も5ミリ単位で首への負担が変わるという。実際に商品の「整形外科枕」は5ミリ単位で高さを調整できるようになっているし、山田医師が患者に教えて自作する「玄関マット枕(玄関マット+タオルケット)」も同じように高さを変えられる。この作り方、高さの合わせ方は後述しよう。
「高すぎる枕を使用すると頸椎が下向きになって、気道が狭くなってしまいますし、低すぎる枕は頸椎が上向きにカーブして神経を圧迫し、長期間使い続けると首のこりや痛みの原因になってしまいます。あおむけになったとき、のどや首筋に圧迫感がなく、呼吸が楽になる適切な高さにすることです」
山田医師はこれまで約10万人の患者に睡眠時の姿勢を指導してきたそうだが、体格に合った枕の高さにすることで、夜中に何度もトイレに起きていた人が起きなくなって熟睡感が増したり、いびきが改善したりした患者が多くいるという。また起床時の肩・首の凝りや痛み、腰痛、頭痛などの「痛み」も改善する。実は私も、枕の硬さには馴染めない一方で、起床後の首や背中の痛みはずいぶん和らいでいた。
2023年に共同研究を発表
そういった枕の効果の一端は論文にまとめられて2023年、『Journal of Physical Therapy Science』(理学療法科学学会誌)に掲載された(※)。東京大学医学部附属病院22世紀医療センター、倉敷成人病センター、そして山田医師率いる16号整形外科の3つの病院が共同して行った研究結果である。そこには枕の高さを厳密に調整することで、首の痛みが軽減し、不眠や自律神経の症状が改善するという事実が記される。
「私の調査によれば、世界で初めて『首のために枕を整えましょう』という概念を報告したのは1940年代、整形外科医のルース・ジャクソン氏によるものでした。それは首をふわっとしたロール状のものに乗せるもの。それが一番最初だったので、以降も皆がそのように枕を設計しました。また海外の研究では枕に重要な条件は、素材、形、温度とされ、高さも5センチ単位で変えて比較するのが主流です。ですが私は前述したように枕の高さはミリ単位で変えます。厳密な高さ調整によって、首への負荷が軽減し、それとともに自律神経の症状が改善されて眠れると考えています」
24年前に枕外来を立ち上げたときには医学界で賛否両論が沸き起こったという。禁煙外来やダイエット外来ならわかるけれど、枕って何? 医学用語でもなく、ただのアイテムじゃないかと、と。だが山田医師は「枕は、整形外科の治療道具になりうる」ことを証明した。これは世界でも稀少な研究だ。海外の論文では生理学や人間工学、理学療法、カイロプラクティックの分野からみた枕の研究しかなく、整形外科領域の「(人体の)神経」にまで踏み込んでいないからである。
※「Changes in neck pain and somatic symptoms before and after the adjustment of the pillow height」

