中国による“ニッケルの実質的な支配”

特に15年から24年までの10年間では、19年以降の伸びが大きく、この期間だけで全体の約8割の投資が行われた。これはインドネシアが世界最大の埋蔵量を保有するニッケルの採掘・精錬のためのものだ。BKPMなどによると、19年から24年9月までの中国投資の合計341億9000万ドルのうち、42%が基礎金属分野、投資先の地域はニッケル鉱床のある中スラウェシ37%、北マルク15%に偏る。

この中国の巨額の投資により、インドネシアは恩恵を受けたことは確かだろう。ただ、中国企業への巨額の税制優遇が前提となっている点は外せない。ニッケル精錬能力の少なくとも75%を中国系企業・株主が実質支配しているとされている。長期的にインドネシアの国益に資するものかは疑問で、ここまでは中国の思惑通りのように見える。

結論から言えば、詳報した通り、高速鉄道単体では赤字が膨らみ中国にとっても誤算となった。ただニッケル戦略を含めたしたたかさという点では、より大きな誤算に陥ったのはインドネシアだった。

当初のインドネシア政府の青写真は以下のようなものだった。加工前のニッケルの輸出を禁止。国内の精錬能力を高め、電気自動車(EV)のバッテリーを国内で生産し、完成車までの工程を実現しようとしていた。

ただ、実際には頓挫しつつある。バッテリーの主流としては、20年以降、ニッケルを使わないLFP電池(リン酸鉄リチウムイオンバッテリー)が中国を中心に世界中で採用が拡大している。

(ANTARA「Menteri Investasi optimistis investasi Tiongkok ke RI terus meningkat」)
(Reuters「Chinese firms control around 75% of Indonesian nickel capacity, report finds」)
(IEA「Prohibition of the export of nickel ore」)

ジャカルタの都市の空撮
写真=iStock.com/CreativaImages
※写真はイメージです

ニッケル価格下落、不透明な「インドネシアのEV戦略」

国際エネルギー機関(IEA)によれば、中国ではすでに、新規EVの4分の3がLFP電池を搭載しているという。LFP電池はニッケルやコバルトといったレアメタルを使わないため、低コストで安全性や寿命にも優れる。さらに、今年に入りナトリウムが新材料として注目されている。

インドネシアがこのEVバッテリー戦略に賭けて22年以降にニッケルの増産を続けた結果、国際市場が下落。さらに今年に入り、バッテリー関連の需要の先行きも怪しい。国内外から価格低迷の原因となっていることへの批判を受け、国内生産の減産に踏み切らざるを得なくなった。

また、インドネシアはここ2年、中国などからのEVに輸入補助金を出して受け入れてきた。中国は国内のEVの過剰供給により「洗濯機とセットで売っているディーラーもある」(先の自動車メーカー幹部)ほどだという。タイをはじめASEAN各国に販売攻勢をかけたが、それを後押しした格好だ。

ただ、インドネシア自動車工業会(ガイキンド)などによると、25年の新車販売台数(卸売ベース)は約80万台で2年連続で大台の100万台を割り込んだ。確かに中国勢が大半を占めるバッテリーEVが約10万台でシェア10%以上を記録している。しかし、今年からのEV輸入補助金の終了で「主要な購買層の中間層が縮小する中、EVが今後も売れ続けるとは考えにくい」(同)という。

(Reuters「Nickel market plays the Indonesia's numbers game」)
(Reuters「Eramet says Indonesia nickel permit volume slashed for 2026」)
(「GAIKINDO Reveals Hurdles of Automotive Industry in 2026」)
(ANTARA「GAIKINDO: Penjualan kendaraan elektrik meningkat di tahun 2025」)