非白人の「仮想敵」が常にいる

エンゲルハート氏はトランプ氏より2歳上の同世代に当たる。同じニューヨーク出身だ。リベラルな家庭で育ったが、それでも思春期の頃、新しい「非白人の敵」である中国共産党が、グリーンランドやベーリング海峡経由でニューヨークの自宅まで攻めてくる地図を、興奮と恐怖をもって作った、と本の中で回想している。2026年のアメリカで、どれだけの人がこの話にうなずくかはわからないが、なぜトランプ氏がグリーンランドを手に入れることにそんなに固執するのか、少し謎が解けたような気がする。トランプ氏はやはり「アメリカの戦後80年の矛盾とジレンマ」の産物なのだ。

それでは、こうした複雑な背景もある中でトランプ氏がパールハーバーを口にしたとすれば、高市首相は何を言うことができただろうか。かなりの難問だ。

今やパールハーバーの時代とはかけ離れて、平和憲法と共に歩んできた日本の戦後について、一言言ってほしかったが、改憲派の高市氏には難しいだろう。個人的には、前首相の石破茂氏だったら、どんな返答をしたか聞いてみたかった。

高市首相は反応しないようにした?

仮にもワシントンの連邦議会議員事務所にいたこともある高市氏だ。「パールハーバー」という単語が聞き取れなかったわけはない。今回高市氏は、何も反応しないことで無難に乗り切ったつもりかもしれないが、もしまた似たようなことがあった時も同じように沈黙したままだったら、高市氏に対しても日本に対しても、何を言ってもいい、というふうになってしまいかねない。今回はたまたま言い返さない方がいいと即座に判断し、それを選択したに過ぎない、ということを高市氏は証明する必要がある。良くも悪くもアメリカは、やり返す(strike back)のが当たり前の文化だ。

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