失語症になっても「漢字が読める」
【養老】日本の文化とそれ以外の文化とのいちばん大きな違いのひとつは、日本語を例にとればよくわかる。というのは、日本語は脳の2カ所を使わないと読めないんです。
【楳図】漢字がですか。
【養老】いやそうじゃなく、失読症という病気があるんです。文字が読めなくなるという病気です。大脳皮質のどこかが壊れると、そういう症状が起こってくる。
で、一般に世界の人が字が読めなくなる場合、大脳の角回という場所が壊れるんです。脳にはふつうシワと言われている溝と山がたくさんありますが、その溝と溝の間の山の部分にちょっと角張ったところがあって、この部分を角回というんですが、その角回が壊れると世界の人は字が読めなくなる。
【楳図】へー。
【養老】ところが、日本人の場合はそこがやられても漢字を読むのに不自由しない。ただし、仮名は読めなくなる。
【楳図】あれえ、不思議ですねえ、なぜでしょう?
世界中で日本だけが「特別」なワケ
【養老】そこでなぜかということになるんですが、日本語の漢字の読み方だけが一定していない。つまり読みがいろいろできるということ、それが原因ではないかと、ぼくは思っている。
たとえば「重」という漢字。この下に「複」が付くと「チョウふく」となり、「大」が付けば「ジュウだい」となる。「ねる」という送り仮名が付けば「カサねる」、「い」という送り仮名を付ければ「オモい」と読む。音読み訓読みなど、実にいろいろな展開ができる。こんな読み方は、外国にはないんですね。
【楳図】そうなんですか。
【養老】そうじゃないですか。たとえば英語でWORDとあれば、ワードとしか読めないでしょう。中国だって「重」はひとつの読みしかない。広東語とか北京語の違いはあっても、少なくとも広東語圏では読みはひとつだし、北京語圏でもひとつしかない。ハングルだって、読みはひとつ。本来文字というものはそういうものなんです。
【楳図】記号ですもんね。
【養老】ひとつの記号にひとつの音が対応している。どこの国の場合もそうなんです。日本だけです、こんな複雑な読み方をするのは。

