日本人にはどのような特徴があるのか。解剖学者の養老孟司さんと漫画家の楳図かずおさんとの対談を収録した『やさしい『唯脳論』』(実業之日本社)より、一部を紹介する――。
企画展「養老先生のさかさま人間学展」を訪れた養老孟司さん=2021年7月5日午後、東京都港区の汐留メディアタワー
写真提供=共同通信社
企画展「養老先生のさかさま人間学展」を訪れた養老孟司さん=2021年7月5日午後、東京都港区の汐留メディアタワー

失語症になっても「漢字が読める」

【養老】日本の文化とそれ以外の文化とのいちばん大きな違いのひとつは、日本語を例にとればよくわかる。というのは、日本語は脳の2カ所を使わないと読めないんです。

【楳図】漢字がですか。

【養老】いやそうじゃなく、失読症という病気があるんです。文字が読めなくなるという病気です。大脳皮質のどこかが壊れると、そういう症状が起こってくる。

で、一般に世界の人が字が読めなくなる場合、大脳の角回という場所が壊れるんです。脳にはふつうシワと言われている溝と山がたくさんありますが、その溝と溝の間の山の部分にちょっと角張ったところがあって、この部分を角回というんですが、その角回が壊れると世界の人は字が読めなくなる。

【楳図】へー。

【養老】ところが、日本人の場合はそこがやられても漢字を読むのに不自由しない。ただし、仮名は読めなくなる。

【楳図】あれえ、不思議ですねえ、なぜでしょう?

世界中で日本だけが「特別」なワケ

【養老】そこでなぜかということになるんですが、日本語の漢字の読み方だけが一定していない。つまり読みがいろいろできるということ、それが原因ではないかと、ぼくは思っている。

たとえば「重」という漢字。この下に「複」が付くと「チョウふく」となり、「大」が付けば「ジュウだい」となる。「ねる」という送り仮名が付けば「カサねる」、「い」という送り仮名を付ければ「オモい」と読む。音読み訓読みなど、実にいろいろな展開ができる。こんな読み方は、外国にはないんですね。

【楳図】そうなんですか。

【養老】そうじゃないですか。たとえば英語でWORDとあれば、ワードとしか読めないでしょう。中国だって「重」はひとつの読みしかない。広東語とか北京語の違いはあっても、少なくとも広東語圏では読みはひとつだし、北京語圏でもひとつしかない。ハングルだって、読みはひとつ。本来文字というものはそういうものなんです。

【楳図】記号ですもんね。

【養老】ひとつの記号にひとつの音が対応している。どこの国の場合もそうなんです。日本だけです、こんな複雑な読み方をするのは。