健康で長生きする人はどこが違うのか。解剖学者の養老孟司さんと漫画家の楳図かずおさんとの対談を収録した『やさしい『唯脳論』』(実業之日本社)より、一部を紹介する――。
寺院の庭園
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脳が「生き死に」を左右する

【楳図】人間が病気になりますねえ、それと脳の関係はないんですか。なんか脳が生きるのはかったるいから、このへんで少し病気になれ、なんて命令して病気になるような。病気というのは、ある意味では「穏やかな自殺」という気もするんですが。

【養老】そういう人もいますね。

【楳図】お酒やタバコをやるというのも、身体に良くないことを脳が知っているのにやらせるわけでしょう。そうすると遠回しの自殺を脳が命令しているみたいな。人生が楽しいことばかりならいいけれど、楽しくなければ病気になれって、そんな気がする。

【養老】そうです。生きるとか死ぬとかいうのを、非常に強く脳が支配している。難しく言えば、生きていてどんな価値があるのかなんて脳が考えるとき、そしてどうもこの人生は面白くないな、なんて思ったとき、酒ばかり飲んだり病気になったりする。脳に影響されているわけですね。

【楳図】それがものすごく大きいような気がします。

【養老】小説でそれが非常にきれいに描かれているものがあります。

【楳図】泉鏡花ですか。

遭難して「生きて帰る人」の条件

【養老】いや、フォーサイスの小説にあるんですが、3人の男が描かれている。たまたま立場の違う男が同じ船に乗り合わせて、その船が沈むんですが、結局、生きて帰ったってしようがないという生きがいのない人間、そういう人間から先に溺れていくんです。

【楳図】やっぱりそうなんだ。

【養老】典型的にそうです。

【楳図】生きがいとか、死ねないと思う気持ちが強い人が最後まで生き残り、そうでない人は遭難なんかで真っ先に死んでいく。脳がここでガンバレって言わないと、人間すぐ病気になったり、遭難したりする。そう考えると、それは脳が自殺をさせているようなもんです、とそんな気がするんですよ。

ある医者がある病気を治すために医者になったんだけど、その病気で死んでしまうということがよくある。これは偶然と言えば偶然なんだけど、どこかで脳がそれを察知している、偶然ではないという気がする。これはどうでしょう?

【養老】脳というのはそういうものでしょう。つまり自分自身の存在とか生きがいとか、そういうものを判断したり決断しているのはすべて脳ですよね。それが結局、その人間の生き方を決定していくわけですから。