「漫画ばかり読むな」と怒る大人の勘違い

【楳図】今日はすごいことをおっしゃっていただいて、ぼくは本当にうれしい(笑)。

【養老】漫画を読む訓練をほどこしていて、それで「漫画ばかり読むな」と言って怒る先生も先生だと(笑)。だから「脳に相談しなさい」と。

【楳図】漫画の構造と漢字のルビが似ている。そういうことをはっきり解きあかしていただくと、これから漫画を読むときも、そうなのかというふうに思って読んでいただける。

【養老】抽象図形に対して、音をルビのように振るというのは、日本人にとってはすごく慣れた作業なんですね。

高橋留美子の『うる星やつら』の中にチェリーという坊主が出てくるんですが、その坊主がこう言うんです。吹き出しに漢字で「揚豚」と書いてあって、それをセリフとして怒鳴っているんですが、横には「カツ」とルビがふってある。これ、吹き出しの中が漫画そのものでしょう。

豚カツ
写真=iStock.com/kimberrywood
※写真はイメージです

【楳図】ええ、そうですね。それは高橋留美子だけじゃなくて、漫画家がギャグとしてけっこう使う手ですね。

【養老】うん、その手法は漫画そのもの。

なぜ日本語にだけ「ルビ」があるのか

【楳図】ぜんぜん読み方の違うルビを振って、そのギャップやズレ、あるいはそのつながりの奇抜さで面白がるってとこありますからね。

【養老】ところが、ルビというのは他の言語にはないんですね。だからおそらくルビのない言語の人は、漫画の読み方がダメというか、未熟というか……。

【楳図】ダメですね。漫画が文化としてなかなか進歩しない。

【養老】実際にわれわれが漢字を読む場合、脳の中で使う場所が他の文字を読む場合とは違うわけです。おそらく漫画を読むときには、漢字を読むときに使う場所の近辺をさかんに使っているはずだと思うんです。

【楳図】それはどの辺でしょうか。

【養老】脳の後ろの下のほうです。日本人の漫画好きは世界の人が認めるところですが、それは基本的には日本語と関係していると思います。

【楳図】これはぼくにとって、とても大きな驚きでした。びっくりしました、ホントに。