利上げか放置か…極端なシナリオと財政再建の重要性
インフレは前述の通り財政に恩恵をもたらすが、それは2〜3%程度の水準であればこそだ。デフレに戻ってもまずいが、5%を超えるような高インフレも市場の信認を損ない、制御不能に陥る危険性を孕んでいる。例えば、現在のところ、ホルムズ海峡の閉鎖という事態はあるものの、日本には250日分以上の石油備蓄があることから、イランやアメリカ・イスラエル等による紛争が日本のインフレ率に及ぼす影響は限定的との見方が多いが、事態が長期化した場合の動向には注視が必要だ。
いずれにせよ、インフレが持続する以上、日銀は利上げを通じて徐々に実質金利をプラスに転換し、円安圧力を低下させることが求められる。
しかし、巨額の国債残高が存在する日本において、金融政策の正常化は容易ではない。国債残高はすでに1000兆円を超えており、長期金利が1%ポイント上昇すれば、国債の借り換え等を通じて約10年かけて利払い費が10兆円も増加する。2%上昇なら20兆円、3%上昇なら30兆円もの負担増だ。
ここで、我々は2つの極端なシナリオを警戒しなければならない。
一つ目は、インフレ率が5%を超えても日銀が財政への配慮から利上げを見送るシナリオだ。この場合、名目税収は増えるが通貨の信認は失墜し、円安がさらに加速する。輸入物価の高騰で実質賃金は一段と圧迫され、国民生活は困窮し、長期的には社会不安を招くリスクが大きい。
二つ目は、為替防衛のために大幅な利上げを強行するシナリオだ。理論上は通貨価値が回復するが、利払い費の急増に加えて金融機関が保有する国債の含み損が急拡大する。これが信用不安につながれば、逆に市場が「日本売り」に傾き、意図に反して円安が進行するという逆説的な結果をもたらす恐れがある。
放置も大幅利上げも、ともに財政・経済を破滅的な不安定化に導く危険を持っている。
高市政権の財政運営はどこに向かうのか――目指すべき「中庸戦略」
これらの極端なシナリオを回避するための現実的な解は、「中程度のインフレ(2〜3%)の維持」+「日銀の緩やかな利上げ」+「着実な財政再建」という三本柱を同時に進める「中庸戦略」しかない。高市政権の政策決定プロセスを追うと、まさにこの細い糸を渡るようなバランス感覚が見て取れる。
例えば、家計の痛みを和らげるための「食料品の消費税率ゼロ(2年間)」という政策について、当初市場は行き過ぎた緊縮志向の転換という言葉に反応し、長期金利は一時2%を超え、為替も乱高下した。
しかし高市首相は、直後の記者会見や演説を通じて「財源は特例公債(赤字国債)に頼らず、既存財源の見直しで確保する」と火消しに回り、一定の財政規律を維持する意思を明確にした。
これにより長期金利の上昇圧力は低下し、円安の進行にも一定の歯止めがかかった。「食料品の消費税率ゼロ」を実施した場合、それが2年で終了できるとは限らず、その実施については慎重な判断が必要だが、高市政権が単に需要超過を招くバラマキを行うのではなく、市場との対話を通じて「規律ある財政運営」を行う政権であると市場が再評価した結果である。
「責任ある積極財政」とは、魔法の杖ではない。成長のための戦略的な投資(アクセル)を踏みつつも、インフレ率の適切な制御も含め、中長期的な債務残高対GDP比の引き下げという財政規律(ブレーキ)を同時にコントロールしていくという、極めて難度の高い財政運営の宣言でもある。
インフレ経済下における日本経済の安定は、この「責任(=財政規律)」の部分がいかに厳格に実行されるかにかかっている。


