物価高に賃金は追いつかないが…

現在の政治情勢からも明らかなとおり、デフレを脱却しても、それが直ちに経済に望ましい結果をもたらすわけではない。昨年の春闘では大企業を中心に5%前後の賃上げが実現したが、中小企業を含む全体の実質賃金は目減り傾向が続いている。名目賃金の上昇が物価上昇を上回らなければ、家計の生活水準はむしろ低下し、消費者態度指数の伸び悩みや生活防衛的な消費抑制行動につながる。

一方で、日本財政はこのインフレによって一定のベネフィットを受けている。物価上昇に伴う「ブラケット・クリープ(Bracket Creep)」によって所得税や法人税の税収が膨らみ、政策的経費も実質的に圧縮されているからだ。さらには、既発の国債は固定金利であるため、インフレによって債務残高の実質的な価値が目減り(対GDP比で改善)する効果もある。2026年度における国の予算案(一般会計当初)のPB黒字化も、このインフレによる恩恵という側面が強い。

「インフレ率より金利が低い状態」が生み出す円安圧力

インフレ経済への転換との関係で、筆者がいま最も注視しているデータが「実質政策金利(名目政策金利-インフレ率)」の推移である。

2024年以降や直近のデータを見ると、アメリカやイギリスの政策金利は3〜4%前後、インフレ率(消費者物価指数コア)は2~3%程度であり、実質政策金利は概ね1%前後の正(プラス)の水準にある。ドイツやフランスも同様に実質金利はマイナスになり難い状況だ。一方で日本は、日銀が金融政策の正常化を徐々に進めているものの、インフレ率(消費者物価指数コアやコアコア)が2%を上回る中で政策金利が依然として1%未満にとどまり、実質政策金利が「恒常的にマイナス」の状態に沈んでいる。

赤い線が下がるグラフを描くビジネスマンの手
写真=iStock.com/domin_domin
日本だけがマイナス圏に取り残されている(※写真はイメージです)

為替レートは長期的には実質金利差が重要な説明変数となる。例えば、アメリカの実質金利がプラス1%、日本がマイナス1%であれば、その2%の金利差は投資家にとって明確な収益率格差だ。マネーは高い収益率を求めて円からドルへと移動し、結果として為替は円安方向に進む。これが輸入物価を押し上げ、さらなるインフレ圧力を生んでいる。

過去(2014年の消費増税時やコロナ禍)の一時的な現象とは異なり、主要国がインフレ抑制のために実質金利をプラス圏へ回帰させた現在においても、日本だけがマイナス圏に取り残されている事実は極めて重い。