高市政権の「責任ある積極財政」とは何か。法政大学の小黒一正教授は「現在のところ高市財政は現実的かつ緊縮的で、インフレも活用した財政運営を目指している可能性がある。極めて難度の高い財政運営の宣言だが、カギとなるのは2~3%のインフレ率だ。その背後にある実質金利や為替の動きを含め、このインフレ率をどう維持し、国債残高(対GDP)を徐々に引き下げることができるかで、中長期的な財政再建の成否を決める可能性がある」という――。

「責任ある積極財政」の「責任」とはどういう意味か

2026年2月20日、高市早苗首相は施政方針演説において、日本の国力強化に向けた「責任ある積極財政」を掲げ、官民投資を促進する方針を打ち出した。「圧倒的に足りないのは国内投資だ」と述べ、半導体やAIなど17の戦略分野への多年度にわたる成長投資を表明したことで、表面上は大規模な財政拡張路線への転換と受け止められがちだ。

しかし、真に注目すべきは、「積極財政」という言葉以上に、その頭につけられた「責任ある」という修飾語である。

首相は演説の中で「マーケットからの信認を損なう野放図な財政政策をとるわけではない」と明言し、成長投資についても「債務残高の対国内総生産(GDP)比引き下げにもつながるよう管理する」と強調した。

事実、2026年度における国の予算案(一般会計当初)ではその基礎的財政収支(プライマリーバランス=PB)が1.3兆円の黒字。また、同予算案では、国債残高(対GDP)が2025年度末の170%から、2026年度末で166%まで低下する見通しになっている。

2026年度に補正予算を組めば、この見通しは変わるが、現時点における高市政権の実態は、市場の信認を死守しながら、緩やかながらも着実に財政再建を進めるという、極めて現実的でしたたかなスタンスなのである。

日本はすでに「デフレからインフレへ」

こうした現実的な財政運営の背景には、日本経済が直面している歴史的な構造転換がある。日本経済の最大の課題は長い間、「デフレからの脱却」であった。1990年代のバブル崩壊以降、物価が持続的に下落し、名目賃金の上昇も停滞した。政府や日銀はアベノミクスの異次元緩和をはじめとする大規模な財政出動や金融緩和を繰り返したが、長らくデフレ脱却は実現できなかった。

しかし2022年以降、事態は一変する。ロシアのウクライナ侵攻や米中対立といった国際秩序の変容、エネルギー価格の急騰、円安による輸入物価の押し上げなどが重なり、国内でも複合的要因でインフレ圧力が高まった。当初は「インフレは一時的」との見方も多かったが、消費者物価指数(総合・コア)が2%を超える状態は2025年12月まで40カ月以上も継続していた。1985年以降の長期データを振り返っても、これほど持続的に物価が上昇した局面はない。消費者物価指数(コアコア)は2026年1月も2%を超えており、日本経済は単なる一時的なインフレではなく、「デフレ経済からインフレ経済への構造的転換」を遂げたと判断するべきだ。

コンビニエンスストアで買い物をし、レシートを確認する女性
写真=iStock.com/Hispanolistic
日本はすでに「デフレからインフレへ」(※写真はイメージです)