さらに、サウジアラビアなどの中東湾岸諸国の脅威となってきたイランへの軍事作戦を成功させれば、米国の中東における存在感を一層高め、中国の影響力にくさびを打つ目算もあっただろう。
しかし、イラン攻撃長期化の懸念が出たことで、こうした目算は狂い始めた。原油価格の高騰は前述の通り米国経済にもダメージを及ぼす状況を作り出してしまった。イランから中東湾岸諸国への攻撃が拡大したことで、米国のイラン攻撃に対する強い協力姿勢は今のところ窺えない。
加えて、戦争の長期化は軍事戦略上の懸念も増大させる。米国にとって最大の脅威が中国であることは間違いない。「国家安全保障戦略(NSS)」で西半球重視の姿勢が示された際も、注目はもっぱら対中政策の扱いに向けられた。中国の台頭を許さないとする米国の姿勢は依然として変わらないとの見方が多い。
「勝ち逃げ」するしかない
中東に軍事力が割かれ続ければ、アジアへ振り向けるパワーは削がれる。長期戦は軍事戦略の見直しを迫るものであり、結果として中国を利することになる。また、米中首脳会談では、中国のレアアース供給に関する交渉は最重要課題である。中東でミサイル等の兵器を消耗すれば、その製造に必要なレアアースの需要は高まり、中国側の交渉カードを強めてしまう。
こうした背景から、中国に対して圧倒的な軍事力と作戦能力だけを見せつけ、イラン攻撃を早めに手仕舞いする、いわば「勝ち逃げ」をしたいという誘因が働いたと考えられる。
この先、米軍が攻撃を緩和するタイミングで、イラン側も呼応して攻撃を緩めるかどうかはイランの新体制次第の面がある。また、米国と共同作戦を進めるイスラエルが強硬姿勢を崩さず、状況悪化が続く可能性も否定できない。トランプ氏としては、自ら始めた戦争を何とかして終わらせるタイミングを、虎視眈々と見計らっていることだろう。

