悔しさが突き動かす音楽制作への思い

『進撃の巨人』のあたりから、雑誌などで自分を取材してもらえる機会も増え、状況が少しずつ前進しているという実感はあった。しかし、その前進は「三歩進んで二歩下がる」のような、もどかしいものだった。果たして去年と比べて、自分はどれだけ進んだのだろうか、と常に自問自答していた。

澤野弘之『錯覚の音』(扶桑社)
澤野弘之『錯覚の音』(扶桑社)

作品のヒットを受けて、Season1の放送終了後のライブイベント「進撃の巨人“Attack音体感”」で、横浜アリーナのステージに立つこともできた。「こんな大きな会場で、多くの人が自分の曲を聴いてくれている」と思う反面、あくまでここにいるほとんどの人は『進撃の巨人』という作品やキャストが好きで来ているお客さんなのだ、ということも理解していた。「澤野? 誰だこいつ」と思われているのではないか、と。邪念のようなものがどこかに付き纏っていた。

しかし、そうした経験を繰り返すほど、「音楽家としてもっと上に行かなければならない」という気持ちも強くなる。曲を作る上で、モチベーションは非常に重要だ。今でも曲作りが楽しいと思えるのは、一つひとつの楽曲に対しては満足できているからだ。

しかし、自分の活動状況や広がりに対しては、常に理想と現実の狭間で悔しい思いをすることが多い。だからこそ、「次の作品こそは……!」という気持ちでモチベーションを高く保ち続けられるのだと思う。

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