教師が部活にハマるワケ
部活動を見守る中で私はいくつかのことに気づいた。部活動には、生徒の成長を間近で感じられる瞬間があるのだ。
女子バスケットボール部の活動でいえば、入部当初パスを受けても戸惑ってばかりだった生徒が、顧問の指導により徐々に力をつけていく。指示を理解し、ポジション取りやシュートがみるみる上達していく。そして、チームの仲間同士で悩み励まし合い、勝利という目標に向かって団結していく。そこには学校の授業では得られない人間ドラマがあふれている。私もだんだんと教員たちが部活にハマっていく(※2)心理を理解できるようになっていった。
※2 部活にハマっていく
他校の校長から、「私は部活の指導だけできたらいい」と断言する教諭の話を聞いた。その校長が「いや、あなたは学校の先生なんだから、まずは授業をがんばらないと」と諭しても本人には刺さらなかったという。どう対応したものかとボヤいていた。
存在意義が揺らぐ大事件
だから、「女子バスケットボール部」を廃部にするのに迷いがなかったわけではない。しかし、そんなことをいっていれば、物事は進まない。私は学校運営会議で案を示し、職員会議で討議したいと伝えた。
職員会議の数日前のことだった。海斗市の教育長が私に会いたいと言って本校を訪れた。彼とは旧知の間柄だ。世間話もそこそこに教育長が切り出した。
「わが県では数年後に大規模なスポーツ大会が開催予定で、海斗市はバスケットボールの競技会場となるんです。その際には各学校のバスケットボール部関係者が大会運営を手伝います。海斗商業高校の女子バスケ部が廃部になってしまうと、他校の負担が増えるので廃部を思いとどまってほしいのですが……」
教育長の話の途中で気がついた。
「もしかして、玄岡先生から頼まれたんですか?」
教育長も玄岡教諭も県のバスケットボール関連団体の役員に名を連ねていた。
教育長は苦笑いしながらそれに答えず、続けた。
「ほかの部活をなくすとか、なんとかなりませんかね?」
「3年後には生徒数が4分の3になるので、同じように部活も減らさないといけません。部員数からいって女子バスケ部しかないのです」
しばらく堂々めぐりの話が続いた。埒が明かないと思ったのか、教育長は不承不承といった態で帰っていった。
その翌日、剣道部顧問(※3)の大河原教諭が校長室に直談判に来た。
「校長先生、お願いですから剣道部をどうにか残していただけませんか」
「3年後には生徒数が4分の3になるので……」
私は昨日と同じ説明を繰り返した。部活に命を懸ける教員にとって、廃部は自らの存在意義が揺らぐ大事件なのかもしれない。
※3 剣道部顧問
海斗商業高校はかつて剣道が盛んだったが、人事異動により指導者に恵まれなくなって弱体化し、私の赴任時は休止状態だった。顧問の大河原教諭から「剣道部を復活させたい」という強い要望を受けて復活させた経緯があったため、私も剣道部には思い入れがあった。ただ特別扱いはできないので廃止の俎上に載せざるをえなかった。

