年長児と幼い子の間には上下関係があった
しかし、オウムへの出家期間が長い子や、年長の子ほど、職員への警戒心を解いていなかった。日誌とは別の報告書には「遠まきに職員の動きなどをみて、冷ややかな行動をとっていた」と記されている。
また、年長児と幼い子どもの間に明確な上下関係がみられた。別の記録には、「(威圧的、命令的、にらみ→服従的)、上位者のみ徒党、相互監視的、友情乏しい」と記されている。年長児がオウムから抜け出すには、まだ時間がかかりそうだった。
なお、4月25日から、住所が判明した子どもたちの県外への移送が始まった。児相から1人、また1人と去っていくが、子どもたちの間に寂しがる様子や動揺は特にみられなかった。これも「相互監視的、友情乏しい」ためだと推測された。
5月2日までに、24人が県外の児相に移送されたため、婦人保護相談所で寝泊まりしていた女子も一時保護所に戻り、これ以降、男子と一緒に寝泊まりすることになった。
「それは任意か強制か」とたずねる子ども
児相の判定課長の保坂三雄さんはこの頃、休む日もなく、連日出勤していた。子どもたちと毎日のように、面談を重ね、心理状態を調べていた。一時保護所で遊んでいる子どもを一人ずつ呼び出し、面接室で話を聞くのだ。しかし、素直に話をしてくれる子はあまりいなかった。
「心理検査に行こうと言うと、『それは任意か強制か』ということを聞くんですよね。『いや、強制じゃないけど、一緒に行ってくれるとうれしいんだけどね』と言って、やっと来てくれます。面談の部屋で遊びながら、だんだん落ち着いてきたら、じゃあ、お絵描きをしようかと。絵を描いてもらったんです。描画法という心理検査の一環なんです」
警戒心を解こうとしない子どもたちに、あの手この手で、保坂さんたちは心理検査を試みようとしていた。最初の取材で見せてもらった絵は、そのときに描かせたものだった。絵の様子から、保坂さんは、改めてオウムの教えが子どもたちの心を深く傷つけていたことを目の当たりにした。
絵を使った心理検査を「HTP検査」という。家(Home)、木(Tree)、人(Person)の3つを描いてもらい、子どもの心理状態を調べようというものだ。
保坂さんによると、家の絵は、家族に対して抱くイメージや家庭状況を表現しているといわれる。子どもたちが描いた絵の中には、家が傾いたり、崩れかかったりしたものがあった。両親が離婚し、母子で出家している子が多く、家庭の崩壊が絵にも表れているというのだ。
また、煙突から煙が出る家を描いた子は、2割にのぼり、家庭内での葛藤や他者への攻撃性を示しているとされる。

