イタリア救済にユーロ加盟国がお金を出し合う構図

【河野】はい、そのときには、中央銀行が大量の長期国債を買い入れざるを得なくなるでしょう。しかし、それには大きな問題が伴います。近年ですと、たとえばコロナ禍のときにECB(欧州中央銀行)がイタリア国債を買い支えて、イタリアを救済した例がありますね。

コロナ前に中国と良好な関係にあった当時のイタリアは、中国からの旅行者も多くて、コロナによる死者数が非常に多く、経済の混乱が続く中で「本当にこの国は借金を返せるのか」とマーケットが疑念を持ち、イタリア国債の金利が急騰しました。

フェイスマスクを着用した警察官が、イタリアのローマ、さびれたトレビの泉広場を横切って歩く
写真=iStock.com/Em Campos
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【唐鎌】当時のECBは臨時会合を開催して、その政策を決定しました。それほど切迫した状況にあったということです。厳密には「パンデミック緊急購入プログラム(PEPP:Pandemic Emergency Purchase Programme)」と呼ばれる政策で、総額7500億ユーロというすさまじい規模の資産買い入れに踏み切りました。

その効果はてき面で、急騰していたイタリア国債の利回りは落ち着きます。ちなみに、こうしてお話ししている現時点でも、その際に購入された大量の国債は、まだECBのバランスシートに残されており、パンデミック前の姿に戻る見通しは立っていません。

【河野】ここで重要なのは、ECBが国債を買っただけで、なぜ金利が落ち着いたのかという点です。単にファンダメンタルズに基づかない危機――先ほどのサンスポット均衡――だったので、ECBの介入によって逆バブルが終息し、安定したのか。それとも別の理由が隠されていたのか。

実は、これにはやや循環論法というか、いわば堂々巡りのような側面があって、真偽はわかりません。ECBは建て前上、国債買い入れの目的が“イタリア救済”だとは言っていません。

しかし、もしイタリアが財政破綻してECBが保有するイタリア国債の価値が下がれば、ユーロ加盟国がその損失を拠出金に応じて負担することになります。

結局、マーケットから見れば、イタリアを救済するためにユーロ加盟国がお金を出し合っているという構図になります。

ECBは出資金比率と国債購入を整理するべき

【唐鎌】その議論には結構、複雑な背景があります。長くなるので深入りは避けますが、ECBが金融政策で国債購入に踏み込む際、「加盟国の出資金比率に応じた分しか買えない」という目安があります。

世界経済の死角
河野龍太郎、唐鎌大輔『世界経済の死角』(幻冬舎)

この比率は今、こうしてお話ししている時点ではドイツなら21.8%、フランスなら16.4%、イタリアなら13.1%といった具合です。月間の購入額が100億ユーロの場合、この按分に従うと、イタリアは13億ユーロ程度しか買えないという話になります。

しかし、PEPPの枠組みで国債を購入する際、ECBはイタリアが出資している分を上回る量の国債を購入しており、最終的にはフランスと同程度という局面も実はありました。

これはしばしばECBウォッチャーの間では話題になりましたが、ECBから十分な説明が提供されることはありませんでした。

もちろん、緊急事態への例外対応ですから、杓子定規にやることがすべて正しいというわけではありません。しかし、どういった場合にECBが出資金比率に囚われずに国債購入できるのか。将来を見据えた場合、整理しておいたほうがよい論点だと思いました。