中国にとっては民族主義のため

しかし、中国が台湾を統一し、台湾に解放軍を展開・常駐することで、中国の軍事的影響力は拡大する。このことは、米国が日本、韓国、フィリピン等のアジアの同盟国を防衛するうえで、重大な脅威となりうる。

要するに、台湾の現状を維持することは、米国とその同盟国にとって、中国の帝国主義的な拡大を封じ込めるためのカギとみなされている。それに対し、中国は、その現状を打破することこそが、民族主義的な運命を果たすためのカギとみなしている。

こうした対立する見方は、台湾を米中関係における究極の火種としている。

実は、過去に3度(1954~55年、58年、そして95~96年)、台湾海峡危機、というものがあった。

人民解放軍が台湾実効支配地域への上陸・砲撃・ミサイル演習を実施し、これに対して米軍が第7艦隊や空母打撃群を派遣し中国側を抑止した台湾海峡危機。この危機がありつつも、台湾をめぐり、米国と中国が正面からぶつかり合う事態は長年想定されていなかった。

しかし、米中の近年の動向は、台湾有事がごく近い将来に発生する可能性があるという切迫感を生み出している。

では、具体的に一体どのような状況の変化が見られるのだろうか。

台湾有事は数年後に起こるか

まず、中国の台湾に対する軍事的圧力が高まっている。

米国当局者もこの圧力を認識している。

英国国際戦略研究所(IISS)は、毎年シンガポールでアジア最大級の安全保障会議であるIISSアジア安全保障会議を開催している。会場のホテルの名前にちなみ、通称はシャングリラ・ダイアログ。

このシャングリラ・ダイアログの2025年会合で、ピート・ヘグセス米国国防長官(現在は同じ肩書を「戦争長官」と呼ぶ)は、人民解放軍の軍事演習の強化と急速な軍事力増強を理由に、中国が武力による台湾統一を試みる「可能性が高まっている」と警告した。

習近平国家主席は、人民解放軍が台湾を武力制圧できる能力を人民解放軍創立100周年にあたる2027年までに備える目標を掲げている。注目すべきは、米軍指導部が2027年を中国が台湾侵攻を試みる可能性のある年として頻繁に言及している点だ。

英国スターマー首相が習近平中国共産党総書記と二国間会談を行ったときの写真
英国スターマー首相が習近平中国共産党総書記と二国間会談を行ったときの写真。2026年1月29日、中国・北京(画像=Simon Dawson/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons

すなわち、少なくとも米国側は、中国側から示されている「意図」(習近平の発言等)と「行動」(台湾周辺での軍事演習の強化等)の両方を踏まえ、台湾有事がもはや遠いシナリオではなく、今後数年間で迫る危機であることを懸念している。