なぜ中国はOKで日本は禁止するのか

イタリアのように近隣の国からウイルスが侵入したわけではなく、ウイルスが外部から人為的に持ち込まれたものであれば、感染拡大を封じ込められる余地は相対的に大きいと考えられる。

だが、ここで1つの疑問が生じる。感染を封じ込めているのなら、なぜ日本はスペイン産豚肉の輸入を全面的に止めているのか。

実は、EU各国や韓国、英国、中国などはスペイン産豚肉の輸入を止めていない。つまり、バルセロナ県以外のASFが発生していない地域からの豚肉輸入は継続しているのだ。

これは「地域主義」と呼ばれる原則によるもので、簡単にいえば「感染が広がっている可能性が高い県の商品は流通を止めるが、そのほかの県のからは買い続ける」というルールだ。WTOのSPS協定(※)は、加盟国に原則として地域主義を採ることを求めている。

※食品安全や動植物の健康を守るための検疫措置が不当な貿易の制限とならぬように定められたWTOのルール

これに対して、日本やフィリピン、台湾などは昨年12月時点でスペインからの輸入を全面的に停止している。日本はASFが一度も発生したことのない「清浄国」であることもあり、安全性に関する科学的根拠が不十分な場合に認められている「暫定措置」として、全面的な禁輸措置を採っているのだ。

日本語で「値上げ」と書かれたニュース見出し
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値上げに苦しむ外食産業を救う一つの兆し

豚肉の値上げに苦しむ外食産業の関係者たちからすれば、日本が中国や韓国などと違う対応を採っていることには納得がいかないかもしれない。

だが、日本と中国などでは前提条件が異なる。日本はASFの発生が確認されていない清浄国である一方、中国や韓国は国内でもASFウイルスへの感染が広がっている。特に中国では、2018年にASFが初めて発生して以降、国内での豚の飼養頭数が数十パーセント減少したとも指摘されている。

スペインのケースが示すように、ASFウイルスは食品を介しても侵入するおそれがある。万一にもウイルスの侵入を許せば、発生農場の豚は全頭殺処分となり、周辺農場も含めた移動制限や出荷停止措置が採られ得る。また、ASFに有効なワクチンは実用化されていないため、国産豚肉の供給力は数年単位で低下するおそれもある。

しかし、政府によるASFへの対応には柔軟化への兆しも見える。というのも、昨年10月に日本はフランスとの間でASF発生時の地域主義適用を認める合意をしたのだ。このことがスペイン産豚肉の輸入規制緩和へと直結するわけではないが、全面的な禁輸措置の長期化を抑制する1つの要素にはなるだろう。

またSPS協定は、清浄地域が今後も清浄であることを示す十分な科学的根拠をもって、疫病発生国が輸入の再開を求めた場合には、輸入国がそれに応じることを義務付けている。これに応じない場合には協定違反となり、過去にはロシアによるEUからの豚肉の全面的な輸入停止措置が協定違反と判断されたこともある。