バリュープロポジションで成功している例を挙げましょう。

一般のTVリモコンは使いこなせないほどたくさんボタンがついていますが、「Apple TV」のリモコンは違います。3つしかボタンがなく、しかもアップルらしい使いやすさを確保しています。アップルはすでに市場が成熟し価格勝負になっているテレビ市場に本格参入しようとしていますが、Apple TVから想像すると、大胆に機能の絞り込みをしてくる可能性があります。

また、アストンマーチンの「シグネット」はトヨタのコンパクトカー「iQ」をベースにプレステージ性を持たせた高級車です。ベースのiQが百数十万円のところ、シグネットは3倍程度の数百万円。

シグネットもリッツ・カールトンのコーラも、消費者は中身の値段を知ったうえで喜んで高いお金を払っています。ターゲット顧客を明確に定義し、真のニーズが見極められれば、多機能は必要ないし、安売りしなくても買ってもらえる。100円のコーラを1000円で売る方法はいくらでもあるのです。問題は、どうやれば顧客の本当の要望に迫れるかでしょう。

埼玉県川口市に防犯ミラーで国内シェア8割を握るコミーという会社があります。社員14人の小さな企業ですが、ミラー1つが数万円します。コミーは顧客に対する製品価値を高めるため、徹底して顧客の要望を把握します。

私がコミーにお邪魔したとき、社長に「社内で人とぶつかりそうになりました」と話したら、すぐに開発担当者を連れてきて、どういう状況だったかを1時間も質問されました。どのような状況でミラーが必要になるのか、四六時中考えているのでしょう。大事なことは、こちらの話をうのみにするのではなく、ある仮説をもってそれを検証している、ということです。仮説をもたずに話をうのみにするから、顧客の言いなりになってしまうのでしょう。

永井孝尚
1984年、慶應義塾大学工学部卒。同年日本IBM入社。ソフトウェア事業部でスキル開発責任者として活躍。
著書に『100円のコーラを1000円で売る方法』(中経出版)。
(構成=大下明文 撮影=武島 亨)
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