「推し」を見つけてとことん行こう
「嫌なことは頑としてやるな」という前項のメッセージは、私たち還暦世代にとって、限りある時間とエネルギーをどう使うべきかという問いに対する一つの答えでした。しかし、単に「嫌なことを避ける」だけでは、人生はどこか物足りなくなってしまいます。
そこで、そのマイナス面を補足するために、「推しを見つけてとことん行く」というプラスの考え方をしてみましょう。「嫌なことをやらない」と、心の余裕と時間が生まれます。
それを、自分の魂を揺さぶるような、とことんのめり込める対象に注ぎ込むのです。「嫌なことは拒否」というブレーキに対する「推しを見つけてとことん行く」というアクセルかも。ブレーキさえしっかりしていれば、アクセルもうまくいくのかもしれません。
またまた愚痴るようですが、私自身、このコロナ禍の5年間は、まさに人生の試練でした(私のみならず落語家全員受難でした)。仕事は激減し、二度の感染を経験。私自身の熱はさほど上がらなかったものの、デルタ株が猛威を振るっていた時期に、大学の同期で飲食店経営者の友人を亡くしました。今でも深い喪失感にとらわれています。
毅然としていたナイスガイでした。一度政府の愚策に対して「オリンピック選手の流す汗は尊くて、我々飲食業関係者の流す汗はけがれているというのか」という慟哭のような文章をSNSに載せたことがありました(マジメすぎる男でした)。消毒をはじめとした感染症対策を万全に施していたのに、なぜ、という思い、無力感のみが募りました。
私自身も彼に負けないよう対策を講じてきましたが、落語の仕事が消えたことで代替的に増やした出版の仕事からくるストレスで、眠れない日々が続き、そんな中で最初の感染に見舞われました。
推しへの情熱をパワーに変える
しかし、その臥せっている時、私に魂魄を揺るがすほどの歌との出合いが訪れたのです。それは、今年結成41周年というベテランのパンクバンド、ニューロティカでした。
彼らの「翼なきもの達」という歌に、私は一瞬にして心を奪われました。「翼が無くても飛べる事を」という歌い出しは、まるで当時の私に語りかけているようでした。
「今、落語という翼がない俺にもきっとチャンスはあるはずだ」――その思いが、私を突き動かしました。小説、そしてシナリオまで手掛けるようになり、それが発端となりNHK朝の連続テレビ小説「あんぱん」への出演が叶うなど、想像もしなかった展開が待っていました。
以来、私はニューロティカさんの熱心な「おっかけ」となり、同世代のボーカル・あっちゃんとはプライベートでも親しくさせてもらっております。
この私の経験は、還暦からの人生において「推し」を見つけることの、計り知れない価値を示していると確信しております。若い頃は、仕事や家庭、社会的な責任に追われ、心の底から熱中できるものを見つける時間や心の余裕がなかったかもしれません。しかし、還暦を過ぎたからこそ、自由な時間が与えられてゆとりのある今だからこそ、本当に好きなもの、情熱を傾けられるものを見つけ、とことん追求するチャンスが訪れたのです。ましてあっちゃんも私より1歳上という同世代、シンパシーを感じるばかりです。

