レム睡眠のタコは夢を見ているかも
このタコは1日に12時間程度眠ります。よく観察してみると、眠っている時には、からだの色が白っぽくなりますが、約45分に1回の規則正しい間隔で、色が黒っぽく変化します。次の図表2には、色が変わっているところを示していますが、1分ほどの間に、とても濃い色になり、すぐに戻ります。
この色の変化を長時間観察したのが、下のグラフで、下向きの三角が色が黒くなったことを示します。規則正しく変化することがわかります。
そこで、タコの脳に電極を入れて脳波を調べたところ、じっとしている時には、全ての周波数で脳波の活動が覚醒時よりも弱まっていました。しかし、色が変わっている時間帯は、覚醒時よりも強い脳波活動が観察されました。そこで彼らは、タコの睡眠には、脳波が弱まる「静的睡眠」と、覚醒状態にも似た脳波の「動的睡眠」という2種類があると考えて、2023年にNature誌に報告しました。静的睡眠中のソデフリダコは、体色が白く、じっとしているのですが、「動的睡眠」の時には、覚醒中に見られるものと似た黒っぽい皮膚色のパターンが出現することから、彼らは、この時には「敵に威嚇されたときのデモンストレーション」をしているのではないかと考えています。つまり、動的睡眠は、哺乳類のレム睡眠に相当するかもしれず、そうすれば、この時、タコも夢を見ているのかもしれません。
脳がなくても眠る生物からわかること
2022年にはなんと、クモのレム睡眠様行動が報告されました。この研究に使われたのはシッチハエトリ(Evarcha arcuata)という歩きながら餌を探す徘徊性のハエトリグモです。ドイツ、コンスタンツ大学の行動生態学者であるダニエラ・ローズラー博士は、あるときこのクモの幼体が無防備に糸にぶら下がったまま足を丸め、ほとんど動かず、たまにからだを震わせていることに気づきました。
そこで赤外線カメラでクモの八つの目の動きを観察することにしました。ハエトリグモは生後10日くらいまでは脳内が半透明で、そのほとんどが眼球で占められているので、観察にはもってこいなのです。その結果、20分に1回くらいの割合で周期的に網膜をギョロッと動かすこと、同時に足をぴくぴくさせたり丸めたりしていることがわかり、レム睡眠に相当すると考えました。
こうした研究報告から、どんなことがいえるのでしょうか。これまで、睡眠は脳の休息、脳と密接に関係するものだと考えられていましたが、脳がないクラゲやヒドラが眠るような行動を示すことから、それだけでは説明がつきません。睡眠という行動そのものは生物の進化の過程上、脳より先に進化したと考えるほうが自然です。




