「真の新規顧客」を獲得するのは難しい市場環境

そのような追い詰められた状況下にあって、本件は発生した。

新しい保険商品の販売にあたり、販売現場を統括する日本郵便(郵便局)は、営業成績のカウント方法として次のようなルールを運用していた。

・既存のかんぽ生命の契約者に新しい保険を追加契約してもらった場合、新契約から6カ月以内に旧契約を解約すると、新規顧客とはみなされず、営業成績は半分しかカウントされない
・既存契約を解約して新しい保険に乗り換えた場合も、解約から3カ月以上の期間を空けなければ、新規顧客とみなされず、営業成績は半分しかカウントされない

この制度は、既存契約の単なる乗り換えではなく、本当の意味での新規顧客獲得を促すことを狙ったものである。それ自体は営業方針として理解できるが、生命保険文化センターの2019年調査によれば、18〜69歳の生命保険加入率は82.1%と、すでに8割超が加入済みであった。こうした市場環境において真の新規顧客を獲得することは極めて難しく、現場の販売圧力を一層高める結果となった。

家の模型と紙の人形の後ろに契約交渉をする人
写真=iStock.com/LightFieldStudios
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不正が常態化・正当化し、違法行為に発展

このような営業評価ルールのもとで、現場はどのように反応したのか。代表的なのは次の2つの不適切行為である。

① 二重徴収:既存契約を解約せずに新契約を追加し、保険料を6カ月間二重に徴収することで新規契約扱いを維持する。
② 無保険期間の創出:旧契約解約から新契約加入まで3カ月以上空けることで、新規契約扱いを得る。

いずれも、顧客利益を犠牲にして営業成績を稼ぐ手法であった。

そして、このように不正が常態化し正当化されると、さらに重大な違法行為に発展する。

報道などによると、

・顧客に無断で申込書を作成・提出し、後から事情を説明すれば許されると考えた(私文書偽造の可能性)
・契約時に顧客が通院事実を申告したにもかかわらず、契約成立を優先して告知書に記載しないよう促した(不告知教唆)
・契約者本人に会わず、親族の書類だけで契約を成立させた(重要事項不告知)

などである。

こうした行為は最終的に、1万2836件もの「法令または社内規則違反の疑い」として募集人調査の対象となったのである。