制度設計の段階で予測できたこと
もちろん、実際に不適切行為を行った郵便局員は責任を問われるべきである。しかし、このような営業評価指標を設定すれば、どのような逸脱行為(場合によっては違法行為)が発生しうるかは、制度設計段階で予測できたはずだ。
制度策定側は、「多少の逸脱は避けられないが、営業の勢いをつけるためにはやむを得ない」と考えた可能性もあれば、単純に現場の実情を把握しておらず、このルールで正当な新規営業が進むと信じた可能性もある。いずれにせよ、制度導入前に営業担当者へのヒアリングや現場検証を行っていれば、問題発生は容易に想定できたと考えるほうが自然である。
制度設計者が現場に違法行為をさせる意図を持っていたわけではないにせよ、すでに8割の国民が生命保険に加入している市場環境下でこのような評価ルールを導入するのは、極めてリスキーだったと考えられる。
※参考:かんぽ生命保険契約問題特別調査委員会「調査報告書」2019年12月18日
ルール設計を誤れば、誰もが犯罪者になりうる
このケースを振り返ると、制度や評価のルールの設計を誤ると、普通の人でも合理的に不正に誘導されることがわかる。
不正に関わったのは“通常は誠実に職務を果たしている人”たちである。彼らを逸脱行為に走らせたのは、倫理感の欠如ではなく、ルールが生み出した「合理的な行動選択」であった。
再発防止のためには、
・組織全体で共有する善悪基準の明確化
・長期・短期の双方に照らした適切な業績評価ルールの策定
・透明性確保とリアルタイム監査の導入
・問題行為に対する確実な懲罰の仕組み
などが必要である。
とりわけ重要なのは、業績評価ルールの設計である。評価の設計を誤れば、不正は必ず起こる。経営陣や幹部は、ルールづくりを単なる管理業務ではなく、組織を守る最重要経営判断と認識すべきである。
ルールは人を守る盾にも、足を踏み外させる坂道にもなる。守れば報われるルールをつくれば、人は健全に振る舞う可能性が高まる。逆に、ルール設計を誤れば、誰もが犯罪者になりうる。ここで示した事例は、その厳粛な事実を突きつけている。


