駅間を徒歩で移動した路線
「未着工の静岡県内の区間だけ山あいを自動車などで連絡して、何とかリニア中央新幹線の列車に乗りたいのですが、何とかなりませんか」と筆者に尋ねた人もいらした。「残念ながら無理です」と答えるほかない。
理由としては、南アルプストンネルが通る周辺は山以外に何もなく、当然道路などないからだ。登山道を整備して徒歩で連絡という可能性もないとは言えないけれど、それなりの装備で臨む必要があるし、天候によっては遭難の危険もある。
日本の鉄道の歴史を見ると、山あいの区間で線路が途切れていたため、その間を徒歩で連絡していた区間が存在した。その一つが今日のJR東日本釜石線だ。
花巻駅と釜石駅との間の90.2キロを結ぶ釜石線は太平洋戦争中の1944(昭和19)年10月11日までに花巻駅と岩手県遠野市にあった仙人峠駅との間、それから同県釜石市にある陸中大橋駅と釜石駅との間が開業した。だが、仙人峠駅と陸中大橋駅との間の約5.5キロはあまりに山が急峻なために鉄道を敷設することができず、旅客は徒歩で、貨物はリフトに載せて移動しなくてはならなかったのだ。
徒歩での山越えには3時間を要したそうで、いくら何でも戦時中でもなければこのような輸送形態は許されなかったであろう。ましてや21世紀のいま、日本を代表するリニア中央新幹線の旅客に徒歩で山越えをとなると世界中から呆れられるはずだ。もちろん、JR東海は旅客に苦痛を強いるつもりなど全くないので安心してほしい。
なお、釜石線は晴れて1950(昭和25)年10月10日に全線開業を果たす。岩手県遠野市の足ケ瀬駅と陸中大橋駅との間が結ばれ、足ケ瀬駅―仙人峠駅間は廃止となった。
10年間で約8キロしか掘れていないが
リニア中央新幹線の開業時期は定かではないものの、建設工事の進捗状況はJR東海によって明らかにされている。建設工事の鍵を握るのはトンネルの掘削工事と言って間違いない。何しろ品川駅―名古屋駅間286.5キロのうち、86%に当たる約246キロがトンネルだからだ。
JR東海は毎週月曜日に掘削工事の進捗状況を示している。そこでわかるのは、品川駅と神奈川県駅(仮称)との間にある長さ36.9キロの第一首都圏トンネル、そして岐阜県駅(仮称)と名古屋駅との間にある長さ34.2キロの第一中京圏トンネルの掘削工事の様子である。
どちらも地下トンネルとなる部分の進捗状況を、シールドマシンと言って円形の断面のトンネルを一気に掘る筒状の重機が進んだ距離によって示される仕組みだ。
2026年2月8日現在、第一首都圏トンネルでは計4基のシールドマシンが合わせて6.877キロを、第一中京圏トンネルでは2基のシールドマシンが合わせて1.075キロをそれぞれ掘り進めた。
着工は2014年末なので、10年以上経過してまだこの程度かと思うかもしれない。シールドマシンは地下に入れたり、掘削の調節をしたりと準備が大変なのだが、一度順調に事が運べばあとは完成を待つばかりなのでそう悲観的になる必要はない。


