「辞める」か「残る」か、迷ったときの判断基準
「そんな面倒なことをするなら、転職して手っ取り早く年収を上げたい」と考える人もいるでしょう。しかし、曽和さんは転職に関しても慎重な見方を示します。
「もちろん転職は年収を上げる有力な選択肢ですが、転職時の年収アップは『サインアップボーナス』である場合も少なくない点に注意すべきです。中途採用は前職の年収を考慮しないと採用しづらいため、一時的に高い年収が提示されるパターンも多いのですが、入社後に実力が伴わなければ数年で頭打ちになるか、下がることさえあります」
特に注意すべきなのは、「社内で昇格直前の人」だと言います。
「会社からの評価に一番納得感が得にくいのは『昇格直前の人』です。なぜならそこが自分の頑張りと評価のズレが一番大きくなるタイミングなので。ここを乗り越えれば昇格してベースの給与が大きく上がるのに、サインアップボーナスにつられて転職してしまうのはもったいないことです。
転職先では、またゼロから信頼を積み上げ、昇格レースをやり直さなければなりません。会社や業界にもよりますが、昇格へ至るまで入社してから数年はかかります。だからこそ、『今の会社で自分がどう期待されているか』を上司に確認し、もし昇格が近いなら今の会社に残ったほうが、結果的に生涯年収アップにつながる場合もあるのです」
一方で、「給与の逆転現象」を目の当たりにし「もう最低限の仕事しかしない」と、いわゆる「静かな退職(編注:会社を辞めるわけではないが、仕事に対して熱心に関与せず、必要最低限の仕事だけを淡々とこなす働き方)」を決め込む人も出てくる可能性はあります。しかし、曽和さんはその選択に強く警鐘を鳴らします。
「それは、人材の流動性が高まっている現代では、キャリアにとって大きなリスクです。
最も恐れるべきは能力開発が止まることです。会社に言われたことだけこなす日々を過ごせば、新しいスキルも経験も身に付きません。定年までしがみつける保証があるならそれもいいのですが、会社が傾いたらどうするのでしょうか? それに、前職で『静かな退職』状態にあった人を好条件で雇う企業は少ないでしょう。将来の転職の選択肢を自ら捨てないためにも、能力開発には努めるべきだと思います」
「お金」を追うか、「やりたいこと」を追うか
曽和さんによると、「給与の逆転現象」は日本企業が市場価値で従業員の給与を決めていく流れを象徴する出来事だといいます。
「離職率や人材の流動性が高く、人々がよく移動していた高度経済成長期のような状況が再来するのではないかと思います。特に、IT業界をはじめとした人材流動性の高い業界ほどこの傾向は強まるでしょうね」
そんな流れを踏まえ、曽和さんは私たちにこう問いかけます。
「これからは、あらゆるビジネスパーソンが『市場価値』を追うか、『やりたいこと』を追うかの選択を迫られます。
市場価値が高い仕事と自分がやりたい仕事は、必ずしも一致しません。市場価値を追って需給バランスの良い業界や職種に身を置くのか、市場価値は二の次でやりたいことを貫いて生きていくのか。
一番危険なのは、中途半端に揺れ動くことです。新卒の初任給に一喜一憂する前に、まずは『自分がどちらの人生を歩みたいのか』を決め、そのために必要なアクションを考える。それが、『給与の逆転現象』に振り回されず、ビジネスシーンでしたたかに生き残るための第一歩となるでしょう」
自分の給与がどのようにして決まっているのか、そして給与を上げるためにどんなロジックが必要なのか、考えるきっかけになったのではないでしょうか。
記事で紹介したノウハウや視点を参考に「自分の現在地」を把握し、働き方を考え直してみる。すると、ビジネスシーンでの「生き残り方」も見えてくるはずです。
取材・編集:はてな編集部 制作:マイナビ転職


