だから「わかりやすさ」が求められる

理由は単純だ。現代の政治課題はあまりに複雑で、明快な正解がない。戦争を止めれば安全になるのか、抑止が崩れるのか。制裁は相手を弱らせるのか、自国の生活を苦しめるのか。対話は妥協なのか、将来の保険なのか。こうした問いに人は疲れ、「わかりやすさ」を求める。原因を一つに、敵を一つに、正しさを一つにしたくなる。

ここで「強い言葉」が魅力を持つ。強い言葉は即効性のある安心感を与える。「迷っていない」と言い切り、「疑いはない」と断定することで、考え続ける苦しさから一時的に解放される。だから説明しない政治は、むしろ支持されやすい。説明とは理性に訴える行為であり、不安な社会ほど、その負荷が嫌われるからだ。

ダンテが描いた地獄は、混沌ではなく「修正が起きない秩序」だった。誰も過ちを認めず、誰も考えを改めず、一度選んだ行動を永遠に繰り返す。地獄の本質は、戻れなくなった状態にある。この構造が現代政治にも現れる。一度決めた路線から引き返せない政治は、短期的には強く見えるが、長期的には現実とのズレを拡大させ、より強い言葉とより大きな敵を必要とする。こうして政治は自らを地獄に閉じ込めていく。