自分なしで動く会社をつくろう

オーナー経営者であれば、営業や開発などのビジネスの根幹をご自身が支えていることが多いはずです。しかし、M&A、親族への継承を問わず、譲渡にあたっては、自分が会社から抜けてもきちんとビジネスが回り、利益をあげる仕組み、体制を作っておくことが重要です。これなしには買い手も買う理由がありませんし、親族内でも承継が難しくなります。また、何よりご自身がハッピーリタイアメントできません。ハードルは高いのですが、このような経営体制を作ることで、何より安定した経営が可能になります。そうした安定した経営こそ、買い手としては欲しく、親族が相手でも胸を張って譲ることのできるビジネスなのです。

私は、必死で努力をされたにもかかわらず、たくさんの会社が無残にたたまれる様を見てきました。残念なことに、その多くが今回の連載で説明した基本的なことを知らないがゆえに破産やM&Aのタイミングを誤り、しなくてもいい苦労をしてしまったわけです。

少しでも多くの会社や経営者、そして従業員、取引先、顧客を救いたい、という想いをもって本稿を書いてきました。

ゆるやかに破産しましょう、ということを言いたかったわけではありません。破産を心配するずっと前にM&Aでexitしてしまえば、いのちを守る心配もしなくてよいはずなのです。「いつでもレディの状態でいてください」ということが一番お伝えしたかったメッセージです。

経営者の年齢があがる一方、若い人たちの就職難が問題となっています。引退を考える経営者に若い人へとビジネスを譲っていただければ、事業継承の問題も就職問題も解決するはずです。それができないのは、経営者の皆さん、若い人たちの知識不足、準備不足が大きな原因です。経営者の皆さん、ご子息の皆さん、もっと多くの人に会って、もっとたくさんの本を読んで、もっとネットの記事を読んで勉強し、自分で考えて、もっと強くなってください。準備万端にしてください。今回の連載がそのきっかけになれば幸いです。

こういった情報を提供し、サービスを提供する会社はまだまだ少ないのが実情です。既存のM&A業者は数億円以上で売買される案件しか扱いません。特に事業継承の問題を本質的に解決しようとすれば、街によくあるお店や会社のM&A、取引金額でいうと数千万円、いや1,000万円以下のM&Aを積極的に扱う必要があります。私は、そのためにハッピーリタイアメントというM&A情報提供サイトを立ち上げ、私が代表を務めるアルテパートナーズ株式会社で運営しています。

小規模M&A支援事業は1社が結果を残せばそれで終わりということはなく、全国規模でアドバイザーが増えなければ、全国的な問題解決ができません。そのため、日本M&Aアドバイザー協会(JMAA)を立ち上げ、アドバイザーの育成、連携強化を図り、ハッピーリタイアメントをご支援するサービスを皆さんがいつでも利用できるような体制を構築しています。

本稿をきっかけとしてハッピーリタイアメントという考え方を多くの経営者の方々に知っていただき、この先10年20年間、問題となる事業継承、若者の就業難の問題を皆さんと一緒に解決していくことができれば最高です。

(企画協力=アルテ総合法律事務所(村井淳也・弁護士/渡邉 論・弁護士))
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