自衛隊は、外国から見れば“日本の軍隊”
もともとこの法制局は微妙な存在で、本来なら法律を作る立法府の法制局が力を発揮すればいいのだが、日本の場合は行政府の役人が法律を作る、という実態に合わせて次第に力をつけてきた。憲法第9条の「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」(第1項)、「前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」(第2項)という規定を文面通りに解釈すれば、集団的自衛権どころか、自衛隊の存在自体、完全な憲法違反である。
しかしこれまでの政府見解では「自衛のための必要最小限度の戦力は9条第2項で言う『戦力』に当たらない」としてきた。これもすごい解釈である。
自衛隊の英訳は「Japan Self-Defense Forces」。米国防総省は「Department of Defense」という。世界でもっとも“オフェンシブ“なアメリカ軍を束ねる統合官庁も「Defense」のための組織という位置づけであり、「自衛隊だから戦力に当たらない」という理屈は、世界では通用しない。今や世界のトップ5に入る軍事力を持つ自衛隊は、外国から見れば立派な“日本の軍隊”なのだ。
とはいうものの、憲法9条の制約はしっかりと存在する。政府はそれを拡大解釈することで“自衛力”の強化に努めてきたが、たとえば自衛隊には航空母艦と海兵隊が存在しないのがいい例だ。航空母艦や海兵隊は“攻撃部隊”であるため、専守防衛のための「必要最小限度の戦力」を超えているという判断をされてきたからだ。
同じ理屈で自衛隊の海外展開も行われてこなかったが、1991年の湾岸戦争で初めて自衛隊をペルシャ湾の機雷除去のために海外に派遣した。これを契機に国連の平和維持(PKO)活動や、イラク戦争やアフガン戦争などの後方支援・復興支援活動で自衛隊が海外に派遣されるようになった。
アメリカは日本に「show the Flag(日の丸を見せろ)」とか「boots on the ground(地上軍を投入せよ)」など、 “人的貢献”を求めるような発言をしてきたが、本音は、「日本が憲法を盾に派兵しないほうが都合いい」と思っている。なぜなら、その“呪縛”が存在するおかげで、日本に金をせびれるからだ。実際、日本の自衛隊は現地でほとんど役に立っていないし、米軍も自衛隊を戦力としてはまったく期待していない。
それでも日本は、湾岸戦争で130億ドル(約1兆3000億円)もの戦費を負担しながら一向に世界から評価されなかった苦い経験から、憲法9条の網をくぐり抜けながら、PKO法、テロ特措法、イラク特措法など関連法を整備して、海外派兵の実績を積み重ねてきた。
そして安倍首相を筆頭とした自民党の右派や民主党の一部の政治家、防衛省の関係者らがより本格的な派兵を目指し、リチャード・アーミテージ(元国務副長官)やジョセフ・ナイ(元ハーバード大学教授)といった知日派米要人のアドバイスを受けて検討を重ねてきたのが、「集団的自衛権」の歴史なのだ。