時間は取り戻せない
実際に雇用延長を選択した人に取材をすると、「定年前と同じ仕事をしているのに給与額が4割ダウンするのは納得できない」「電話番や単純作業なので過去に蓄積した能力が活かせない」「かつての部下からあごで使われるのはたまらない」と憤る人もいた。
一方では、「好きな仕事を続けることができて嬉しい」と語る人もいれば、「役職を離れたので時間や業績に追われなくなった」「周囲の評価を気にしなくて済む」と、雇用延長による働き方の変化を歓迎している声もある。
たとえ給与が定年前に比べて大幅に下がったとしても、子どもが独立して教育費を払い終えたり、住宅ローンの支払いが終了するなど、支出も減っている人が多いからだろう。
以前よりは減少しても一定の収入があるうえ、年金の支給もまもなく始まる。仕事の負担は減り、その分自由時間が増えるこの時期は、自身の黄金時代にできるチャンスがあると考えてよいのではないか。
老親の介護を抱えて大変な思いをしている人もいるだろうが、この時期を充実して楽しく過ごさないと、後でリカバーしようと思っても時間は取り戻せない、というのが取材してきた私自身の実感である。
75歳からは「プラチナの時代」
第3期である75歳以降は「プラチナの時代」とも呼ぶべき時期で、「黄金時代」の15年間を経て、さらに充実した人生を重ねていける可能性を秘めている。
世の中でいう隠居や道楽といった、誰にも煩わされずに自分の楽しみを追求する生き方も可能になる。
しかしながら、この年齢になると、心身の老いとまったく無関係に過ごすことは困難である。大病を抱えたり、認知症の足音が聞こえたり、自立した生活が徐々に難しくなってくる時期でもある。


