「産業・技術・安全保障」の連鎖が生活を守る
4.世界の構造変化を一言でまとめると
防衛産業とは、“国家機能を維持する産業”であり“軍事のための産業”ではなくなりつつある。
身近な例を挙げれば、家庭に届く電気やガスの背後には、エネルギー輸送を担う海運・造船産業があり、そのさらに背後には海上輸送路の安全保障体制がある。私たちの日常の安定は、こうした複層的な産業・技術・安全保障の連鎖のうえに成り立っている。防衛産業を“国家インフラ”として捉える理由は、この連鎖性にある。
そしてその構造変化は、日本の造船、半導体、エネルギー、AI、物流など広く産業政策の領域に波及する。
だからこそ日本では、防衛産業を「軍事の言葉」で語るのではなく、“産業構造のひとつ”として冷静に捉え直す必要がある。
第2章で取り上げたのは次の4点である。
② 5つの防衛産業レイヤー
③ 4つの巨大潮流
④ それらが「国家インフラ産業」であるという事実
ここでは、世界がどの方向へ動いているかという“構造そのもの”を示した。次章では、このフレームをもとに米国・中国・イスラエル・韓国という4つの典型ケースを“比較構造”として整理していく。
米国が誇る「6万社・110万人の防衛エコシステム」
第3章:米国・中国・イスラエル・韓国――4つのモデルに見る「テクノロジー×安全保障×産業構造」の比較
第2章では、世界の防衛産業が“軍需産業→国家インフラ産業”として再定義されつつある構造を整理した。第3章では、その構造転換がもっとも先鋭的に表れている米国・中国・イスラエル・韓国の4つのケースを、価値判断を排しつつ“分析可能なフレーム”として提示する。
この章の目的は、「どの国が良い/悪い」ではなく、それぞれがどのような“産業アーキテクチャ”で動いているのかを可視化することにある。
1.米国:巨大プライム×ミッドティア×防衛テックの“階層型エコシステム”
米国国防省の諮問機関である国防ビジネス委員会(DBB:Defense Business Board)のレポート『Industry Partnerships for Crises』(2024年11月)によると、米国は約6万社・110万人以上の産業基盤からなる世界最大の防衛エコシステムを持つ。これは「軍需の大きさ」ではなく、民生・IT・半導体・AI・宇宙・サイバーを含む巨大産業クラスターである。

