「5つの問い」にどう向き合うか
【C-2:Customer(顧客=防衛省・防衛装備庁+国際市場)】
単一顧客構造のまま、産業基盤は持続可能なのか?
世界では、米国:政府+輸出、韓国:輸出主導、イスラエル:輸出依存、中国:巨大内需、対して日本は事実上、防衛省・防衛装備庁のみが顧客という世界でも極めて珍しい構造である。
ここから生じる問いは――
・将来の財政制約や政策変更に対して、どれほど耐性があるのか?
これは制度批判でも政策提案でもなく、産業構造から自然に出てくる質問である。
【C-3:Competitor(競合=米・欧・中・韓)】
「競争しない」という選択肢は、長期的に成立するのか?
世界では、米国は多層エコシステム、中国は国家主導の巨大内需、イスラエルはスタートアップ中心、韓国は大量生産+輸出という、それぞれ異なるアーキテクチャで競争している。こうした国際市場の中で、日本は長年にわたり“特定市場で競争しない”という構造を維持してきた。
それは意図ではなく、制度・心理・歴史が生んだ結果である。ここで問われるのは、
・閉じた市場構造と開かれた技術競争の間に矛盾は生じないのか?
これも“評価”ではなく、“構造的な問い”にすぎない。
3.第1~4章の統合から生まれる、もっとも根源的な5つの問い
本稿の結論は“意見”ではなく、以下の“論点そのもの”である。
ここまで見てきた基盤産業は、普段の生活からはほとんど意識されない。しかし、半導体、造船、エネルギー、通信といった要素はいずれも、日常生活の“静かな支柱”となっている。これらの基盤が揺らげば、物流、価格、雇用といった生活そのものに影響が及びうる。
論点①
高度技術を国内市場だけで維持することは、構造的に可能なのか?
論点②
裾野の縮小は、どこまで不可逆なのか? 再構築は可能なのか?
論点③
“防衛部門=多角企業内の副業”という構造は、長期的に技術投資を成立させるのか?
論点④
単一顧客構造と産業基盤維持は矛盾しないのか?
論点⑤
世界が「安全保障=産業構造」と再定義する中で、日本はどの構造の中に自らを位置づけるのか?
本稿は、主張を行わず、政策を語らず、答えも提示しない。ただ、構造を可視化し、その構造が“必然的に生む問い”を整理したにすぎない。
判断は読者の側にある。日本社会がどの方向に進むかを決めるのも読者であり、社会全体である。
本稿が提供したのは、その判断を行うための「フレーム」と「材料」だけだ。
そして、議論の前提を整えることこそ、誤解を避けながら安全保障と産業を語るための最初の一歩である。

