防衛部門が「副業」になっている

最終章:構造分析から必然的に浮かび上がる「問い」だけを提示する――主張ではなく、フレームとして

本稿では一貫して、政治的立場・軍事的主張・政策誘導を慎重に排除し、日本の防衛産業を「国家のインフラとしての産業構造」として冷静かつ客観的に可視化してきた。

最終章では、第1~4章の分析を総合しながら、“結論”ではなく、“論点”のみを提示する。

ここにあるのは主張ではなく、産業構造・3C分析・SWOT分析から自然に導かれる“問い”の集積である。

1.SWOT分析が必然的に示す4つの根源的論点(何をすべきかではなく、構造から生じる“問い”)

【論点①:強み(S)×機会(O)】

高度技術は「国内市場」だけで活かしきれるのか?

日本の潜水艦、レーダー、電子戦、複合材料、精密加工……。世界的に見ても確かな“技術の強み”がある。しかし同時に、市場はほぼ防衛省・防衛装備庁のみ(単一顧客構造)という極めて珍しい構図だ。

S(技術力)×O(世界市場の拡大)から必然的に問われるのは、

・高度技術は国内需要だけで持続可能なのか?
・技術を活かす“場”はどこにあるのか?
・技術の深みは、どの構造で維持されるのか?

これは“輸出すべきかどうか”の議論ではない。「構造として問いが存在する」という事実の提示である。

【論点②:弱み(W)×脅威(T)】

裾野の細りと技術者の高齢化は、長期的に基盤を維持できるのか?

1品1仕様・小ロット・長納期、下請け企業の撤退、設備更新の停滞、技術者の高齢化、国際競争経験の不足など、これらのW(弱み)は、世界的なT(脅威)=地政学的緊張や供給網競争と重なったとき、次の問いが浮かぶ。

・製造“できる”体制を今後維持できるのか?
・製造断絶が生じた場合、それは復元可能なのか?
・裾野喪失は不可逆なのか、再構築は可能なのか?

ここでも「何をすべきか」を示すのではない。あくまで、産業構造が必然的に生み出すリスクの輪郭を可視化するのみである。

2.3C分析から生まれる「産業としての問い」

【C-1:Company(日本企業)】

多角企業の「副業」としての防衛部門は、持続的な技術投資を可能にするのか?

日本の大手防衛関連メーカーにおいて、防衛分野は企業全体売上の中で支配的な位置を占めていない。三菱重工は「航空・防衛・宇宙」部門が全社売上の1~2割程度と推定され、川崎重工や三菱電機も同様に、防衛は全体の一事業に過ぎない。いずれも欧米の「防衛専業企業」とは異なり、多角経営の中に防衛部門が部分的に組み込まれているため、経営資源の配分では民生・インフラ・エネルギー等の基幹事業が優先されやすい構造になっている。

つまり、日本の防衛産業の課題は技術水準ではなく、“企業戦略上の優先順位が上がりにくい事業ドメインに位置づけられている”という産業構造そのものにある。

・防衛部門が「副業」である状態で、技術・人材投資は継続できるのか?
・企業経営としてのインセンティブ構造はどうなっているのか?

ここも「解」ではなく、経営構造が提示する“問い”である。