「世界の4モデル」との比較からわかる「日本の位置」
本稿では優劣ではなく、構造上の位置付けを比較している。対比すると、日本は次のような特性を持つ。
米国との比較
米国の防衛産業は、巨大プライムからティア3サプライヤーまで層が厚い多層エコシステムを形成している。一方、日本はミッドティアの層が極めて薄く、プライム級の大企業でさえ防衛を主事業として扱わない。このため、米国のように「分厚いピラミッドで全体を支える」という構造にはならず、「大企業+少数の専門企業+細り続ける裾野」という固定化した形態が続いている。
中国との比較
中国は国家戦略として軍民融合を推進し、産業・科学技術・軍事を一体で運用するモデルを採る。それに対し、日本の防衛産業は国家主導ではなく、各企業の自主判断によって成立している。結果として「防衛産業=主事業ではない」という位置付けが制度面・文化面の両方で固定化している。
イスラエルとの比較
イスラエルでは、軍のサイバー部隊からスタートアップへの直接的な人材循環がエコシステムの核心を成す。一方、日本では自衛隊と産業界の間で人材の循環が制度的にも実態としてもほぼ存在しない。安全保障知識と技術知識の“流動性”が弱いため、民生と防衛の相互作用が自然には発生しにくい。
韓国との比較
韓国は大量生産・短納期・価格競争力を武器に、防衛産業を輸出主導の成長分野へ転換している。対して日本は、1品1仕様・小ロット・長納期・高品質という特殊な市場構造で成り立つ。品質という強みは国内市場では優位性を発揮するものの、輸出市場では必ずしも競争力として機能しない。しかしこれは優劣の問題ではなく、“市場構造の違い”がもたらす結果である。
技術水準・信頼性が極めて高い
日本の防衛産業は、世界市場から見ても明確な強みを持っている。技術水準は高く、信頼性も極めて高い。もっとも、その力が十分に発揮される場は限定されてきたという構造的制約がある。
① 技術の深さ(潜水艦・レーダー・電子戦・複合材料)
潜水艦、レーダー、電子戦、複合材料といった領域には、世界でも最高水準の技術を有する分野が複数存在する。
② 民生技術との重層的シナジー
重工・電機・ITといった民生領域で培われた技術が、防衛分野に“横流し”される構造が組み込まれている。
③ 品質と信頼性
高い品質と供給の安定性により、「信頼できる供給者」としての国際的評価が定着している。
④ 日米同盟を軸にした国際連携のポジション
日米の共同開発・共同運用の枠組みに参加しやすい地位を有しており、国際的な協調の中に組み込まれやすい。
いずれも、国際的な“差別化要素”となり得る構造的強みである。

