日本は世界でも「珍しい」構造

第4章:日本の防衛産業――「静かな危機」と「静かな強み」が共存する構造

第3章で、米国・中国・イスラエル・韓国の4モデルを価値判断抜きに比較構造として整理した。第4章では、それらの構造との対比を通じて、日本の防衛産業がどのようなアーキテクチャ(産業構造)を持つのかを客観的に捉え直す。

ここでも本稿の原則は変わらない。政治的立場を採らず、ただ構造の輪郭をできるかぎり正確に可視化することを目的とする。

まず、日本の防衛産業は世界の4モデルと比べて、極めて特徴的な“前提”を持っている。

① 単一顧客構造(ほぼ100%国内向け)

日本の防衛産業は、収益のほぼすべてが防衛省・防衛装備庁(ATLA)による調達に依存しており、単一顧客モデルで成立している。歴史的に輸出市場へのアクセスが厳しく制限されてきたため、設計思想も「純国内供給」を前提としたまま固定化されている。米国・韓国が輸出前提で拡大し、中国が巨大な内需で成長し、イスラエルが輸出依存モデルを発展させてきたのとは異なり、日本は世界でも例外的な「単一顧客×小規模市場」によって成立する産業構造を持つ。

防衛省
防衛省(写真=N509FZ/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons

② 防衛専業企業が存在しない(全社が多角企業)

日本には米国の巨大プライムや中国の国有専業企業、イスラエルの「防衛専業×スタートアップ」のような“防衛専業企業”が存在しない。三菱重工、川崎重工、三菱電機、NEC、富士通といった主要企業はいずれも売上のほとんどが民生・インフラ・重工領域で、防衛分野は企業内部では“副業”に近い位置付けになりやすい。この「多角企業の一事業としての防衛」という構造は、世界の主要モデルとは鮮明な対照を成している。

③ 成熟した高度技術の蓄積がある一方、産業裾野が細る構造

日本の防衛産業は、潜水艦、レーダー、電子戦、複合材料、精密加工などの領域で世界的に高い技術水準を誇る。しかし同時に、下請けサプライヤーの撤退、熟練工不足、設備更新の停滞、国際競争経験の不足といった“静かな劣化”が進行していることが、政府・関係省庁による複数の調査・政策文書でも継続的に指摘されている。つまり、高度技術を維持しながらも、それを支える裾野が徐々に痩せていくという構造的な不均衡が生じている。