世界から見た「安全保障の新常識」
誤解を最小化し、議論の前提を整え、読者が自ら思考するための“土台”を用意するために、本稿では次の4原則を徹底する。
① 政治的主張を完全に排除する
防衛産業は政治的対立の材料として扱われやすい。ここでは一切の賛成・反対の立場をとらず、ただ「構造」を提示することに徹する。
② 「日本はどうすべきか」を語らない
政策提言は、目的が誤解される可能性が高い。本稿は、何かを推進する文章ではなく、“論点を可視化する文章”である。
③ 答えを提示せず、「問い」を提示する
本稿が提示するのは、意見ではなく「問い」である。どこに論点があるのか、何が構造的なボトルネックなのか、その“素材”を提供する。
④ 「安全保障=産業構造」という世界基準で整理する
日本では安全保障=軍事のイメージが強いが、世界の理解は完全に異なる。安全保障=国家の重要インフラの維持であり、軍事はその一部にすぎない。
この観点から、防衛産業を「国家の産業インフラ」の文脈で扱う。
私たちの日常に影響する「大変化」
日本の防衛産業は、政治や軍事のイメージによって長年「議論すること自体」が避けられてきた。しかし今、周辺環境・国際潮流・技術競争の構造変化によって、防衛産業を産業の側面から理解する必要性が急速に高まっている。
半導体やAIが「安全保障」そのものになった。造船・海運はエネルギー安全保障の基盤になった。宇宙・サイバー・量子が国家間競争の中心になった。供給網の耐性が国家機能の中心課題になった。国際共同開発が巨大な産業クラスターを生んだ。
たとえば、2021~22年の半導体不足では、自動車や家電が品薄となり、私たちの日常生活にも静かに影響が及んだ。表面上は「生産遅延」のように見えても、その背後では国際供給網のわずかな揺らぎが経済全体に連鎖していた。この事例は、防衛産業や基盤技術の議論が軍事だけではなく、私たちの日常ともつながる“静かな安全保障”の構造を持つことを示している。
こうした変化はすべて、日本の産業政策とも直結している。
だからこそ本稿は、“安全保障を語るための記事”ではなく、「産業としての防衛」を社会が理解できる状態にするための記事として位置づけたい。

