世界の防衛産業は「5層構造」で動いている

2.世界のプレイヤー構造:5つのレイヤーで成り立つ防衛産業構造

世界の防衛産業を俯瞰すると、次の5層構造で動いている。

【レイヤー1】巨大プライム(最上位元請け)
世界の防衛産業の最上位に位置するのが、いわゆる巨大プライム(最上位元請け)である。米国・欧州が中心で、産業構造の核を成す層だ。代表的な企業としては、ロッキード・マーチン、ボーイング・ディフェンス・スペース・アンド・セキュリティ、ノースロップ・グラマン、BAEシステムズ、レオナルドなどが挙げられる。国家レベルの大規模契約のもと、複数領域にわたる高度システム統合を担い、長期サプライチェーンを維持しながら、その契約主体として政府と直接結びつく層が巨大プライムである。

【レイヤー2】国有巨大企業(中国)
中国の防衛産業の中核を担うのは、国有巨大企業によって構成される国有コングロマリットである。AVIC(中国航空工業集団)、NORINCO(中国兵器工業集団)、CASIC(中国航天科工集団)といった企業が代表例で、国家主導の軍民融合政策のもとで発展してきた。巨大な内需市場を背景に、技術成熟度にばらつきがありながらも、「量」と「スピード」で事業拡大を進めるモデルが特徴である。

【レイヤー3】ミッドティア(中堅総合)
韓国・イスラエル・欧州の一部企業が位置づけられるのがミッドティアである。特定領域での専門性を武器に、短納期と量産力を両立させ、価格競争力を備えたモデルで、輸出志向が強い点が特徴となっている。

【レイヤー4】スペシャリスト(電子・センサー・サイバー)
イスラエルや米国で存在感が大きいのがスペシャリストの層である。レーダー・電子戦・サイバーといった領域に経営資源を集中投下し、事業活動を同分野へ特化させることで、AIスタックと深く結びつくテクノロジーを有する点が特徴である。軍事と民生の境界が極めて希薄な領域を担う点もこの層の重要な性格となっている。

【レイヤー5】防衛テック(AI・宇宙・ドローン)
急拡大しているのが防衛テックに該当する新領域の層である。スペースX、アンダリル、パランティア、DJIなどに代表され、AI・宇宙・ドローンといった新領域を起点に産業構造の外側から参入しているのが特徴だ。アルゴリズムを中心とした設計思想のもと、ソフトウェアとセンサーを高度に統合し、民生市場で磨かれた技術をほぼタイムラグなく軍事用途に転用する。量産・低コスト化のスピードが圧倒的に速く、従来型の開発サイクルとはまったく異なる競争原理で市場を拡大している。