だが、はたして本心はどこにあるのか。NHKの受信契約数約4100万件のうち、衛星放送の契約数は約2200万件と半分程度でしかない。衛星放送開始から35年も経つのに、普及のレベルは低い。

だが、もはやBS4Kが衛星契約を増やす起爆剤になるとは、とても考えられない状況だ。10月からネット配信が放送と同様に必須業務となっただけに、BS4Kのネット配信という選択肢を真剣に検討するかもしれない。

ちなみに、NHKだけが固執して運用している超々高精細画質の8Kは、対応テレビも極端に少なく、ほとんど視聴されていない。こちらは「8Kは完全に失敗」という評価が放送界の共通認識になりつつある。

東京法務局渋谷出張所から見たNHK放送センター
東京法務局渋谷出張所から見たNHK放送センター(写真=Syced/CC-Zero/Wikimedia Commons

行政主導の放送の限界が露呈した

「A-PAB」の最近の調査(2024年2月)によると、BS4K・8Kの認知度は42.3%にまで高まったが、実際に視聴したことがある人は11.0%に過ぎない。

BS4Kの現在地は、だれも住もうとしない荒野に等しい。そもそも、テレビ受像機の市場対策からスタートしたところに、ボタンのかけ違いがあった。「視聴者不在だった」のである。

今後、視聴者が4Kに触れる場所は、テレビではなくネットが中心になるだろう。コンテンツ提供の主戦場が、テレビからネットに移行しているのが現実だ。

BS4Kの行き詰まりは、行政主導の放送というメディアの限界を浮き彫りにした。

民放BS4K5局が撤退すれば、BS4Kに放送行政の根幹である「公民二元体制」はもはや望むべくもない。

総務省の描いた「夢物語」は、「絵空言」に終わりそうだ。

放送が名実ともに歴史的転換点に立たされている中、放送行政は、有識者会議が提言したように、ネット配信へのシフトを念頭に、発想のコペルニクス的転換を余儀なくされるタイミングに来ている。

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