引導渡した総務省の有識者会議

総務省の有識者会議「衛星放送ワーキンググループ」(主査・伊東晋東京理科大名誉教授)は10月29日、BS4Kのあり方について「第二次とりまとめ(案)」を公表した。

そこでは、ネット配信の広がりにより、衛星放送の特徴である多チャンネル性が相対的に低下していると分析。ネット配信やゲームの制作・流通は4Kコンテンツが世界的潮流となる中、BS4Kはコンテンツが明らかに見劣りし視聴者のニーズを喚起できていないと指摘、費用回収が不可能な状況に陥っていると、現状を概観した。

そのうえで、4Kの番組を放送に固執せず、ネット配信に展開するなどビジネスモデルの再構築を図り、収益の確保を目指すよう提言した。

メンバーの1人である音好宏・上智大教授は「放送界は、昨今の選挙報道のネット展開で、いち早くオーディエンスの全体像を把握できたし世代ごとの反応もわかるなど、新たな発見をした。テレビも、ネットに上手に進出することによって新たなビジネスモデルを作っていくことは十分ありうる。だから、どんどんネットに出ていけばいい」と語る。

つまり、総務省が音頭を取ってきたBS4Kは「これ以上続けても改善できる見込みは薄い」と断じたのである。

有識者会議のメンバーをみると、これまで放送行政に好意的な見解をもつ面々が多く見受けられる。にもかかわらず、もはや見切りをつけざるを得ないほど経営環境は悪化しており、断腸の思いでBS4Kに引導を渡したともいえる。スタートしてから、わずか10年足らずの痛恨の判断である。

TBSホールディングスの悲鳴

有識者会議の議論で明らかになった民放BS4Kの実態は衝撃的だった。

TBSホールディングスの報告によると、まず、視聴者へのリーチ力(2025年7月・TVS REGZA調べ)は、地上放送のTBSが82.0%に対し、BS-TBSが22.8%。これに対し、BS4Kは3.5%だった。ほとんど「お客さん」がいないことがわかったのだ。

その結果、BS4Kは、2024年度の事業収入が約1200万円に対し、番組制作・購入費、衛星利用料、放送機器委託費、宣伝費などの事業支出は約8.6億円だった。収入がほとんどないのに、費用が年間10億円近くもかかっているというのである。

最近、廃線問題が取り沙汰されているJRのローカル線の営業系数も真っ青の超赤字なのである。

さらに、2030年には、放送設備の更新が不可避で、約15憶円がかかると見込んだ。実に125年分の収入にあたる。

これでは、とてもビジネスにはならない。

視聴者へのリーチ力がまったくないため、今後も収益が伸びる見込みはなく、一方でコストの大幅削減はまったなしというのであれば、「経営判断が必要なタイミングが来ている」として「BS4K撤退、ネット配信に移行」との方向性を打ち出したのも当然だろう。

他の民放BS4Kも同様の傾向で、「BS日テレ」「BS朝日」「BS-TBS」「BSテレ東」「BSフジ」の5局を合わせた赤字は累計で300億円規模に上るという。