「いまの若者には夢がない」って本当?

「いまの時代は夢をもちにくい」。じつはこれ、わたしには疑問なのです。

「夢をもてない」とか「現実の壁が厚すぎる」と考える人が多いのはほんとうかもしれませんが、その一方で自分の夢を追いかけ、その実現を本気でめざしている人も少なくないからです。

たとえばかつて東大生の多くが卒業後めざしたのは官僚か教授でした。文系なら、旧大蔵省のような一流官庁に入ってキャリア組のエリート官僚をめざすか、大学に残って教授をめざすか、まさに「末は博士か大臣か」という、ある意味では非常に現実的で安定した地位をめざしたのです。

ところがいまの東大生は外資系やベンチャー分野の企業に進む人が増えています。

そのほうが収入がいいというのもありますが、すぐに自分のやりたいことができるからです。リスクも大きいぶん、描ける夢も大きいのです。

これはべつに東大生にかぎったことではありません。

一流企業志向は相変わらず根強いものがありますが、やりたい仕事ができない大企業より、中小の規模の会社や新しい分野の組織でも技術力や開発力の高い企業に就職して、そこで夢を実現しようと考える学生は着実に増えています。

どんな一流企業でも5年、10年先のビジョンが描けない時代ですから、「それならリスクは同じことだ」というわけです。

むしろ、「人並みに暮らせればいい」とみんなが考えるのなら、「わたしは夢を追う」とひたむきになれ、チャレンジする人にこそチャンスは訪れると考えることだってできます。

感情の「老化」が夢を打ち消してしまう

では「夢がもちにくい」というムードはどこからきているのでしょうか? わたしは文字通り、ムードにすぎないと思っています。

――世の中全体の感情が沈んでしまって、夢や希望を語り合うことすらなくなったから。
――こころに浮かぶ夢があっても、「どうせ無理」と感情が打ち消してしまうから。

つまり、本来なら夢を語ろうとする感情が、しわしわにしぼんで弾力を失ってしまい、逆に夢を打ち消すようになったからです。

たぶんあなたも、ずいぶん長い時間、自分の夢を親しい人と語り合う楽しさを忘れているはずです。

おそらく東大生に夢を追う学生がいるのは、「頭がいい」からではなく、第一志望に合格したという自信や人生への希望がふつうより強いからなのでしょう。

同窓会のような集まりとかに出ると気がつくことがあります。にぎやかな会場が、いまの仕事や地位を自慢し合うグループと、これからの夢を語り合うグループに分かれるのです。昔の仲間も同じで、会えばもちろん近況は語り合うし、思い出話もたくさん出てきます。