食パン4万枚を焼く商品テスト

ドラマでは、常子たちが発行する雑誌『あなたの暮し』が商品試験を実施し、トースターなどの製品を徹底検証する様子が描かれた。試験で酷評されたメーカーからの嫌がらせや批判が新聞記事にまで拡大し、常子たちは商品試験に不正がないことを証明するために公開試験を行うというドラマチックな展開もあった。

しかし、実際の『暮しの手帖』の商品テストは、ドラマをはるかに凌駕する過酷さだった。トースターの商品テストでは食パン4万3088枚を実際に焼き続け、その膨大なトーストを積み上げた写真を掲載。石油ストーブの実験では花森の指図でわざとストーブを倒して発火させ、ベビーカーでは100km歩行して耐久性を検証し、配線器具ではプラグを5000回にわたり抜き差しを繰り返した。フライパンや魚焼きアミのテストでは1カ月間、朝から晩までキャベツや菜っ葉を炒め続け魚を焼き続け、男子靴のテストでは35人の男性モニターに細かくうるさい条件下で1年間1日も欠かさず履き通してもらうなど、大変な手間と時間と費用をかけている。

焼き色の異なる2枚のトーストと、焼いていない食パン
写真=iStock.com/SasaJo
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誰もが認めた鎭子のマネジメント能力

『暮しの手帖』の最大の特徴は、「広告を一切とらない」という姿勢にあった。スポンサーに左右されず、企業の顔色を窺わず、生活者目線の批評を貫くこと――その理想を守るため、経営は常に厳しく、職員の生活は相当な節約を強いられたが、花森はいっさい妥協しなかった。

花森は天才的な編集者であり、デザイナーであり、思想家だったが、それだけでは雑誌は作れない。原稿の進行管理、印刷所との折衝、配本の調整、資金繰り。花森の理想を、実際の雑誌として形にし、読者に届けるためには、経営者で編集者でもある鎭子の地道な仕事が不可欠だった。

そんな二人の関係性を象徴するエピソードがある。