業務効率化のために生成AIを導入する企業が増えている。生成AIの法人導入を専門とするコンサルタントの小島舞子さんは「現場では、従業員の利用率が徐々に下がっていくことが課題になっている。AIへの不信感や、実際の業務での有用性を理解していなことが原因だ」という――。

※本稿は、小島舞子『企業競争力を高めるための生成AIの教科書』(Gakken)の一部を再編集したものです。

AIと虫眼鏡アイコンの木製ブロック
写真=iStock.com/patpitchaya
※写真はイメージです

AI導入するも、なかなか利用率が上がらない

生成AIの導入は、必ずしも全ての企業にとって順風満帆というわけではない。多くの企業が導入後に直面する課題について、詳しく見ていこう。

最も頻繁に耳にする問題は、従業員の利用率の低さだ。2025年のAI戦略における挑戦で、46%の企業が社内導入と回答している(※1)。それにも関わらず、法人向け生成AIの月次利用率は、平均で2〜3割程度に留まっている。

※1 KPMG「KPMG AI Quarterly Pulse Survey」

大々的な社内告知を行った初月こそ高い利用率を示すものの、特定の従業員層を除いてその後は徐々に下降線をたどる傾向が見られる。

この現象の背景には、新しいツールに対する抵抗感や、具体的な活用方法が見いだせないことなどが挙げられる。多くの従業員は、最初こそ好奇心から触れてみるものの、実際の業務での有用性が明確でないと、日常的な使用には至らず、次第に遠ざかってしまう。

「AIを信用できない人」が恐れていること

さらに、AIの出力に対する不信感も大きな障壁となっている。誤った情報を提供するリスクがあると認識されると、利用を敬遠する従業員が増加する傾向にある。この問題に対しては、ガバナンス体制の構築や、全社的な利用指針の周知徹底によって、ある程度の不安解消が可能だ。

一方で、従業員の利用率が高い企業に共通する特徴がある。それは、業務に即した具体的な利用例を提示し、実際の業務プロセスにAIを組み込む工夫を行っていることだ。また、社内でAIに対する関心を高める雰囲気づくりも重要な要素となっている。

結局のところ、生成AIの導入を成功に導くには、具体的な利用事例の共有と継続的なサポートが欠かせない。

勉強会では事前にログインさせておく

社内での利用促進には、実際に触れて試す機会を提供することが肝心だ。生成AIを会社で導入すると、毎日活発に使う人と、ログインすらせず一度も使わない人に分かれることが多い。後者は自ら積極的に使い始めることが少ない。

そこで、勉強会や研修で実際にパソコンを開き、生成AIを活用する体験をさせるのが効果的だ。参加者には、会社が提供する生成AIツールにログイン済のパソコンを持参するよう、事前に伝える。

当日は、「納期が遅れる際の丁寧な謝罪メールを取引先向けに作成して」「添付された会議録をもとにアクションアイテムを抽出して」「提案書のタイトルとリード文をブラッシュアップして」といった実務に即したお題を出し、全員に生成AIへの質問を打ち込ませる。