前線から専門部隊へつなぐ
12年2月に浮上した大人の遠足は、4月に決まった。3月にプレモルがリュニーアルされた直後である。
「プレモルに替えてもらうチャンスかも」と内川は期していた。
果たして、当日は川崎ら店の関係者4人のほか、常連客が16人参加する。20代や30代のOLをはじめ、男性サラリーマンや自営業者、60代の定年退職者まで参加者は多士済々。東京に異動していた元常連客も新幹線でやってきた。内川は、“添乗員”として20人を引率する。
「すごーい! ビールって、こうやってつくるの」。OLが驚嘆感激すると、川崎は「最近の若い子は工場を知らんのう。よう見とけや」と話しかけた。工程の見学後には、ビールの注ぎ方教室、サーバーの洗浄教室が開かれ、最後はプレモルで乾杯した。川崎は内川のもとに歩み寄り、グラスを合わせると言った。
「ありがとう。内川さんのお陰や。みんなに喜んでもらえた。そこでや、ウチもプレモルに替える。いま、こうして改めて飲んでみて決心した」
だが、話はここで終わらない。川崎商店はサントリーの研修を受け、良質な状態でプレモルを提供する
「樽生達人店」(現在約1万2000店)になる。さらに1年後の今年、「超達人店」に昇格したのだ。
超達人店は、サントリーが今年から認定を始めたもので、提供するビールの品質で頂点に立つ店舗を指す。現在、全国に約300店だが、今年中に1000店舗にしたい考えをサントリーはもつ。また、プレモルは今年上期、販売量が6%伸びた。
大野浩サンリーブ品質営業部サブマネージャーは言う。
「注ぎ方でビールはまるで違うものになります。超達人店のサーバーはコックが特別製」「内川たち現場の営業マンは、飲食店との接点。彼らからパスを受けた我々が、高品質な樽生ビールを出せるよう飲食店をサポートしていくのです」
店をサポートする樽生アドバイザーは大阪だけで30人いて、1人が約300店を担当。定期的に飲食店を巡回し、洗浄などのチェックやアドバイスを行う。営業は、部門を超えたチームプレーによる総力戦だ。前線の内川から、飲食店が供するビールの品質を高めるための大野たち専門部隊へ、パスをつなぐ。連携は求められる。それぞれが役割を果たし、飲食店を巻き込みプレモルの価値向上を推し進める。
内川は言う。「大阪には大衆的な飲食店がたくさんある。これらをみな、プレモルを美味しく出す店に替えていきたい」
(文中敬称略)
サントリービア&スピリッツ大阪支社第1支店部長代理。同志社大学商学部卒業、1997年サントリー入社。2002年より現職。
川崎和宏
川崎商店本町本舗大将。鹿児島で郷土料理店を兄と経営、鹿児島の黒豚と焼酎を提供する店として2004年大阪船場に同店を開く。