「余命3カ月」…やなせ夫妻を救った意外な提案
連続テレビ小説「あんぱん」の主人公、のぶ(今田美桜)のモデルである、やなせさんの妻・暢さんに乳がんが見つかったのは1988年、昭和から平成へ、元号が変わる直前だった。
緊急入院し、即日手術を受けた後、担当医から別室に呼ばれたやなせさんは、「奥様の生命は長く保ってあと3カ月です」と告げられる。
「全身の血の気がひいていくのが解った。ぼくが悪かった。もう少し早く気がつけばよかった」と、強烈な悔恨の念が著書『アンパンマンの遺書』(岩波現代文庫)に記されている。
しかし、いくら自分を責めてみても時は戻らない。
病気のことは誰にも明かさないまま仕事を続けていたが、異変に気が付いたのは漫画家の里中満智子さんだった。
事情を聞かれ、生命があと3カ月と宣告されたことを打ち明けた。すると思いがけない提案をされる。
「私も癌だったの。私は手術がいやで、丸山ワクチンを打ち続けて7年目に完治したの。試してみませんか」
「水みたいなもの」と言われたワクチン
日本医科大学で丸山ワクチンを入手し、入院先の東京女子医大で「丸山ワクチンを注射してください」と頼み込むと主治医は「水みたいなもので効きませんよ」と断言。「かまいません。藁にでもすがりたいのです」と承知させたのだった。
そして1カ月後、暢さんは歩けるまでに回復し、退院する。余命3カ月だったはずが5年間、お茶の稽古や好きだった山歩きを楽しみながら生きながらえることができた。
しかも5年後に亡くなったのは、丸山ワクチンの効果がなくなったからではない。ワクチンを打つことをやめてしまったからだと、やなせさんは思った。
もう一度打つよう勧めると、暢さんは「丸山ワクチンと東京女子医大とどっちを信じるかといえば、私はやっぱり女子医大を信じるわ」と聞き入れなかったという。
「ぼくは現在の抗がん剤はどうも信用できない。あんなに副作用の強いクスリが身体にいいわけがない。癌はもし治っても、抗がん剤で死ぬとぼくは思った。しかし、カミさんを翻意させることはできなかった」


